あふれ出る生命力が映画の魅力に『スラムドッグ$ミリオネア』―No.7 大人の上質シネマ

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あふれ出る生命力が映画の魅力に『スラムドッグ$ミリオネア』―No.7 大人の上質シネマ

全米ではわずか10館から公開がスタートしたものの、口コミで評判を呼び、ついにはアカデミー賞最多8部門を制覇するまでに至った『スラムドッグ$ミリオネア』。無名のキャストに、1400万ドルという低予算の製作費という有利とは言えない条件が重なり、北米では劇場で公開されない可能性すらあった本作が、なぜここまで成功できたのか?

それは、混迷する世界経済の縮図とされるインドのスラム街の“今”が重要なポイントだ。富と貧困が混在し、神と悪魔が同居する国――インドには、なぜだか人の心を惹きつけて離さない不思議な生命力がある。本物のスラム街で実際に撮影された本作には、それがそのまま封じ込められていると言っていい。そして、スクリーンからみなぎるインドの“生”のパワーこそ、『スラムドッグ$ミリオネア』の一番の魅力なのだ。

このスラム街から始まる物語を体現する主人公は、少年ジャマール(デーヴ・パテル)。世界最大のクイズショー“クイズ$ミリオネア”に出演し、最後の1問にまで勝ち進んだ彼は、不正を疑われ、警察に逮捕されてしまう。医者や弁護士が成し得なかった14問の連続正解を、スラム街で孤児として育ったジャマールがやってのけたことに、番組の司会者が不審を抱いたためだ。

やがて、物語は華やかなクイズショーから一転、ジャマールが取り調べを受ける警察へと切り替わる。映画は、クイズ番組の収録、警察による尋問、ジャマールの少年時代という3つの時間軸を交錯させることで、社会の底辺から這い上がってきた彼の壮絶な人生を浮かび上がらせ、なぜ彼がクイズの答えを知っていたのかを明らかにしていく。

電車の乗客から金を盗み、ニセの観光ガイドをすることで小銭を稼ぐ。犯罪に手を染めることでしか生きる術がなかったジャマールの人生は、とても過酷だ。しかし、どんな厳しい状況においても知恵を絞り、したたかに、たくましく生き抜いていく姿は、格差社会という言葉を吹き飛ばしてしまうぐらいに力強く、“生”への執念とパワーがほとばしる。と同時に、ジャマールと生き別れになった幼なじみの少女ラティカ(フリーダ・ピント)とのエピソードが、ジャマールと底辺に生きる人々の人生に希望をもたらし、観る者に最高のラストプレゼントを与えてくれるのだ。

いわばこの映画は、劇的な“チェンジ”を描いたもの。画面からあふれ出る生命力と力強さが、最高のスパイスとなってドラマを盛立てている。社会に元気がない今だからこそ、ぜひスクリーンで観てほしい作品だ。【ワークス・エム・ブロス】

■『スラムドッグ$ミリオネア』は4月18(土)全国ロードショー

【大人の上質シネマ】大人な2人が一緒に映画を観に行くことを前提に、見ごたえのある作品を厳選して紹介します。若い子がワーキャー観る映画はちょっと置いておいて、分別のある大人ならではの映画的愉しみを追求。メジャー系話題作のみならず、埋もれがちな傑作・秀作を取り上げますのでお楽しみに。

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