瑛太と松田龍平、10代での出会いを振り返る
瑛太と松田龍平の出会いは02年公開の映画『青い春』だ。松田は主演を務め、瑛太は映画初出演を果たした青春映画である。あれから12年、公私共々、良好な関係を築き上げてきた2人の最新共演作『まほろ駅前狂騒曲』が10月18日(土)より公開される。三浦しをんの人気小説を映像化した本シリーズは、便利屋を営むバツイチ男2人が繰り広げるオフビートな人間ドラマだ。瑛太と松田龍平にインタビューし、「まほろ」ワールドの撮影秘話について話を聞いた。
今回の多田啓介(瑛太)と行天春彦(松田龍平)は、多田がこっそり引き受けた、行天の実娘の子守り代行に苦戦したり、謎の元新興宗教団体の調査で、事件に巻き込まれたりしていく。瑛太は、「まほろ」シリーズの独特の世界観について「“まほろ”という架空の町の話だから、どこかファンタジーやメルヘンであっても良いんじゃないかなと。決め事を作ってないし、くるりさんの音楽もそうだけど、ジャンルをはっきりさせていないところが良いんです。いろんなスキがたくさんあって、何でも当てはまってしまう感じがね」と捉えている。
松田は「『まほろ』っぽさに関しては、多田といる時に感じます。そこに尽きますね」と言うと、瑛太も「確かに2人のシーンの時、『まほろ』感というか、この世界のなかで生きている多田を、ちゃんと実感できる気がします。多田って、龍平が演じる行天あってのものなんだなと、今回改めて感じました」と、松田との信頼関係をにじませる。
2011年の映画『まほろ駅前多田便利軒』、2013年の連続ドラマ「まほろ駅前番外地」に続いて、製作された本作。瑛太は「やっぱりシリーズ化できるってことは幸せなことなんだと、シンプルに受け止めていきたいと思いました。『まほろ』の世界観って、すごく難しいと思うんですが、見てくれた方に『本当に好きなんだよね、あの世界が』とか言ってもらえたりすると、やっていてすごくうれしいんです。それは自分に自信をもつってことではなくて、作品の面白みを純粋に捉えていきたいと思いました」。
松田は、役者をやっている醍醐味についてこう語った。「僕はそんなに器用な方じゃないから、自分を何個も持つってことはできないけど、やった役が自分の体に染み込んで、血となり肉と成るのは感じています。今回に限らず、役者っていろんな役をやるなかで、たとえば僕が不得意ものを好きだと言う人間を演じることにより、『意外と良いな。けっこう好きかも』と思えたりすることがあるんです。そういういろんな視点を持てることは重要だし、そういうきっかけをくれる仕事って、他にないなあとも思っています。でも、どんな仕事もそうですが、人とのコミュニケーションのとり方や、距離感などを勉強する場を必然的に与えてくれる。そのことに気づける人は、役者をやろうがやるまいが、素敵だとも思っています」。
また、その後、2人の出会いのエピソードの話に。瑛太は、映画デビュー作『青い春』の現場をこう振り返った。「僕は、『青い春』で集団に馴染めない役柄を演じていたんですが、実際に映画の現場も初めてだったので、どうしてよいのかわからなくて。校庭や教室の隅にいる感じだったのですが、たぶん最初に声をかけてくれたのが龍平でした。学生ものだから、その後、グループ分けがだんだんできていったけど、龍平はいろんなところにちゃんといられる人だったし、僕に対しては『一緒にサッカーしよう』と言ってくれて、ふたりで空き時間があればやったりしていました。そこからごはんを食べに行ったりするようになったけど、特に会話がなくても、一緒にいられるんです」。
その後、『ナイン・ソウルズ』(03)や『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)、『まほろ』シリーズなど、さまざまな作品で共演した2人。瑛太は「昔よりも今の方が、ひとつの物事に対して、ディスカッションができるようになりました」と語る。「お互いが自然に、自分の状況や、作品、役に対して、意見交換ができて、そこに刺激や面白みを感じられるようになっていきました。ある一定の距離感みたいなものは常にあるけど、お互いにベクトルみたいなものは近いのかもしれない」。
松田も10代の頃の自分について「いろんな理想と現実がストレートに来る年頃でした」と述懐。「もちろん、今もそんなに変わらないですが、瑛太とは、そういうもやもやしているなかで出会いました。そこから、いろんなものが削ぎ落とされていって、自分なりに答えを探してきたけど、ようやくそれがちょっと形になってきたから、互いに話せるようになってきたのかもしれない。昔は、理由のない自信みたいなものを信じて生きていたけど、今はある程度、何か自分がやったことに対して、形のある自信みたいなものがお互いにもててきたのかなと。だからそこで、ちゃんとやろうと思って、やっている感じです。とはいえ、まだまだなんですが、それが楽しいなと思っています」。
『まほろ』シリーズの多田と行天とは打ってかわり、瑛太も松田もプライベートでは、決して口数の多いタイプではない。でも、2人が入念に選び出した言葉からは、俳優としても人としても、きちんと物事に向き合っている姿勢が感じられる。多田と行天は、そういう2人が丁寧に演じたからこそ、唯一無比の名コンビになったのだと、改めて実感した。【取材・文/山崎伸子】