庵野秀明が自身のキャリアを振り返る!【アニメ監督編】徹底的に追い込まれた『エヴァ』製作秘話を語る!Part1
第27回東京国際映画祭の目玉企画として注目を集めた「庵野秀明の世界」。庵野秀明が自身のキャリアを振り返る同時開催のトークショー(全5回)の第4弾(10月27日開催)となるのが「監督・庵野秀明(シリーズ&長編アニメーション)」だ。庵野の代表的な仕事が集中しているテレビシリーズ&長編アニメにスポットを当て、庵野と氷川竜介(アニメ・特撮研究家)が濃密な対談を展開した。「新世紀エヴァンゲリオン」、そして“新劇場版”の第4作にも話がおよんだこのトークショーの模様を徹底レポートする。
【監督としての挫折を味わった『トップをねらえ!』】
氷川「今日はいよいよアニメ監督編です。まずは『トップをねらえ!』の話から。以前、『監督を目指していたわけではなかった』とお聞きしたんですが、なぜ監督になろうと思ったんですか?」
庵野「もともと監督に向いてる性格ではないんですよ。僕には責任感があまりないので。まあ、誰とは言いませんが、責任を取らない監督もいますからね(笑)。当時、ガイナックスは『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の完成をもって解散する予定でした。この作品を作るためだけに会社を作って、作品が完成したら解散…。これは美しいと思って、話に乗ったんです。でも『王立』が終わりの頃になってくると、リテイクまで自分で担当していた」
氷川「演出的な部分にも関わっていたんですね」
庵野「(『トップをねらえ!』の)監督ができたのは、過去の自主制作と『王立』でいろんなポジションを経験したからだと思います。でも1~2話に関しては『本当にすいません!』という感じ(笑)。これを糧にして、3~4話で頑張って、5~6話で人に見せられるものにはなったかなと。脚本は山賀(博之)だったんですけど、1話が本当に酷い内容で(笑)。全面書き直しました。でも2話はよくて、ほとんど脚本をいじってないですね」
氷川「2話の脚本を見て、監督をやることを決めたんですか?」
庵野「この2話の脚本が、僕が知る限り“ウラシマ効果”をドラマに盛り込んだ最初の体験だった。こんなにいい話が宙に浮いたままで、作品にならないのはもったいないなと思って、僕が監督をやりますと。でも、そこから待機期間が長くて…。当時は、バンダイビジュアルに社内的な都合があったんです」
氷川「『パトレイバー』が一緒に進んでましたからね(笑)」
庵野「いや、その前からいろいろとあるんですよ…。『トワイライトQ』のせいで(笑)。あれがものすごい予算を使ったんですけど、売れなかったんです。それで、OVA(オリジナルビデオアニメーション)はもうダメだというレッテルが貼られてしまった」
氷川「でも歴史的に見れば、OVAは『パトレイバー』と『トップをねらえ!』で巻き返したという感じですよね?」
庵野「『パトレイバー』はおもしろくて良い作品です。ゆうき(まさみ)さん、ぶっちゃん(出渕裕)、伊藤(和典)さん、高田(明美)さんが本当に頑張っていました。いま、押井(守)さんの名前を挙げなかったのは意図的ですけど(笑)。バンダイは『押井さんの方に先に予算をあげるから、庵野さんは待ってて』と言うんです。だから『パトレイバー』が一通り終わるまで『トップをねらえ!』は動けなかった」
氷川「実際に『トップをねらえ!』を始めて、どうでした?」
庵野「この作品は“人の力”で作られています。樋口(真嗣)がコメディと特撮とパロディ、岡田(斗司夫)さんがSF、山賀がドラマをやって、僕が映像的に上乗せしていく…。担当がきれいに分かれていて、それを僕がチョイスできたのがよかったんです」
【酷い脚本を無視して作った『ふしぎの海のナディア』】
庵野「『トップをねらえ!』で疲れきっていたので、しばらくはガイナックスから離れたいと思っていたんで。でも、ガイナックスが『ふしぎの海のナディア』を引き受けてしまったので、やるしかない状況だった。ここで山賀とかが監督をやればいいのに、全然やらなくて(笑)。それで僕にお鉢が回ってくるわけです。そのときの殺し文句が『庵野、お前『トップをねらえ!』でどれだけの赤字を作ったと思ってんだ!』で。それで『ナディア』の脚本を読んでみると、これがまあ酷いんですよ(笑)」
氷川「でも出来上がったものを見ると、そうはなっていないじゃないですか」
庵野「プロットは残しておいて、勝手にディテールやキャラクターを書き直したんです。その作業を貞本(義行)と前田(真宏)と僕でやりながら、毎週NHKに通って…。絵コンテをプロデューサーに見せて『この絵コンテが通らないなら僕は作業を続けることができません。通れば、このまま監督を続けることができます。僕からは降りると言えないので選んでください』と言いました。ただ僕がズルいのは、この時点で監督の入れ替えができないタイミングなんですよ(笑)。さすがにNHKも『通すしかないですよね』という流れになりましたね」
氷川「ということはプロデューサー的な役割もやってるじゃないですか(笑)」
庵野「でも『おもしろくするのはいいけど、脚本には忠実にしてほしい』と言われたので、3話あたりまでは忠実に作っています。ちょっとずつNHKの脚本を使わないようにして、4話は潜水艦戦だったのでほぼ書き直して…。最終的には完全に脚本を読んでないですからね(笑)」
氷川「『ナディア』は途中で樋口さんに監督をバトンタッチしますよね?」
庵野「そうです。“一試合完全燃焼”し過ぎて、試合の途中で腕が折れたような感じになりました。ちょうどその頃、樋口が香港の仕事でひどい目に遭って帰国したんです。樋口がボロボロになっているときに『ちょっと気軽なアニメをやってみない?』と誘ったら『やります』と。これがいわゆる『ナディア』の“島編”」
氷川「樋口さんに代わってから、急にスラップスティックコメディみたいになりますよね」
庵野「僕は休むことで肩を冷やして、最後の8、9回は無事投げられるようになりました。その間、樋口は大変だったと思います。僕は会社にはいるんですが、何もできずボーっとしている状態でしたね」
氷川「『ふしぎの海のナディア』を振り返ってみて、どうですか?監督として自信がつきましたか?」
庵野「いや、途中で降板してしまったので、自信はつかなかったですね。いま思えば、ところどころカーブとかチェンジアップを投げて調整すれば良かった。あのときは、全力で投球しすぎて、1球も手を抜かなかった。体力的にも精神的にもアウトでしたね」
(【アニメ監督編】Part2へ続く)
【取材・文/トライワークス】