永瀬正敏、相米慎二は「鬼監督」。愛情たっぷりに語る

インタビュー

永瀬正敏、相米慎二は「鬼監督」。愛情たっぷりに語る

16歳のとき、相米慎二監督作『ションベン・ライダー』(83)でデビューして以降、映画にこだわり“映画俳優”として歩み続ける永瀬正敏。最新作となる台湾映画『KANO〜1931海の向こうの甲子園〜』(1月24日公開)は、彼が「忘れられない作品になった」という渾身作。本作に込めた情熱、これまでの役者人生を熱っぽく語ってくれた。

本作の撮影はデビュー30周年の節目の年に重なった。出演を決めた経緯には、「私立探偵 濱マイクシリーズ」など、25年あまり公私にわたって親交のある林海象監督の存在があった。「すでにいろいろとやることが決まっていて、『スケジュール、どうしようかな』と悩んでいたんです。そんなとき、海象さんが本作のプロデューサー、ウェイ・ダーションさんと仕事をしたことがあったので、海象さんから『僕の友達がつくる映画だから、まずは脚本を読んでみて』と言われて。台本をいただいて読んでみたら、僕にとって初めてのことばかりだったんです」。

日本統治時代に台湾から甲子園に出場し、決勝まで勝ち進んだ「嘉義農林学校」野球部の実話を描く本作。「僕は、台湾の代表チームが甲子園に出ていたというのも初めて知って。三民族(日本人、台湾人、台湾原住民)の人種の壁を超えたチームづくりをされて、しかも甲子園の決勝まで行った。僕たちの先輩でこんなに素晴らしいことを成し遂げられた方々がいるんだっていうことを、もっと知ってもらいたいと思ったんです」。

1991年の出演作『シャドー・オブ・ノクターン アジアン・ビート 台湾篇』ではエドワード・ヤンがプロデュースを務めていたが、「過去にも、台湾の映画人の方々にお世話になっています。本作は、エドワード・ヤンさんのところで映画の修行されたウェイさんの企画で。30周年を迎えるときにこの作品に出られたというのは、いろいろな意味で不思議ですし、忘れられない作品になりました」と、30年続けてきたからこその、“映画が結んだ縁”を感じたようだ。

永瀬が演じるのは、嘉義ナインを育て上げた名監督・近藤兵太郎役。鬼監督として厳しくも、愛情深く生徒を指導した実在の人物だ。近藤監督とナインの関係性も、役者人生を振り返る機会となったそう。「生徒たちを演じたのは、野球のできるアスリートの子たちで、みんな役者じゃないんです。演技の勉強も一切したことがない。30年前の自分と同じなんです。相米慎二さんという鬼監督に出会って、というシチュエーションも同じで、年頃も同じくらい。とても感慨深いものがありました」と“オヤジ”と呼ぶ相米監督を思い出し、笑顔がこぼれる。

「みんなに早く会いたい!愛おしくて仕方ないんですよ」と、生徒役キャストへの思いを叫ぶ。「まったくお芝居をしたことのない子たちがカメラの前に立って、使い慣れない日本語を覚えて、野球もやらなければいけない。5か月の間、何重もの苦労を彼らは背負って、やり切った。すごいですよ。彼らは、こんなにいい子たちがいていいんだろうかと思うくらい純粋。自分の子供くらいずっと年下ですけれど、一緒に映画をつくった仲間としてとても尊敬できる方たちでした」。

自身の30年前を振り返ってもらうと、「彼らは僕よりずっとすごいですよ!」とニッコリ。「今ではデビュー作が相米さんですごく感謝しているし、大好きなんだけど、30年前の当時は『教えろよ!』ってずっと思っていました。ど素人をつかまえて、なんで何も教えてくれないんだろうって。監督に聞いても『俺も知らねえよ』っていう監督(笑)。『お前がやっている役なんだから、お前が一番知っているに決まっている』って。確かに教えてもらっても、それは上っ面だけになってしまうんですよね」。

その葛藤が、今も糧になっている。「機械的なお芝居ではなくて、その人に“なる”っていうのかな。その人として生きるということを教えてくれたのは、相米さん」と感謝しきり。「でもね、当時は本当に勘弁してほしかった。1、2、3日目とリハーサルだけで終わる。何十人もいるスタッフの方が、『今日も本番、回んねえのか』って帰っていく。『俺のせいだ、すみません!』って思うんだけど、そういうことが何も見えなくなった頃が、『そろそろかな。本番行こう』というオヤジの合図なんです。当時は無我夢中で気がついていなかった。今思うと、本当にありがたいことです」。

相米監督と出会い、映画と向き合い続けた30年。永瀬にとってどんな歳月だったのだろう。「最初の映画のクランクアップの日に、この現場にずっと居続けたいと思ったんです。それがずっと今も繋がっている感じで。考えてみればあっという間の気もします。やっても上映されなかったり、現場に呼んでもらえなかった時期もありますが、これまで、映画に裏切られたと感じたことは、一回もありません」。クールなイメージがある一方、対峙してみるとどこまでも熱く、真っ直ぐ。筋の通った人柄が、演じた近藤監督とピタリと重なった。【取材・文/成田おり枝】

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