三上博史、「30代のころ役者を辞めようと思っていた」
「交渉人」(03)や「パンドラ」(08)、「下町ロケット」(11)、「震える牛」(13)と、過去7本のWOWOWドラマに出演経験のある三上博史が、1月24日(土)よりスタートするWOWOW連続ドラマW「贖罪の奏鳴曲(ソナタ)」に主演。過去に殺人を犯したことがある弁護士・御子柴礼司を熱演した彼に、ドラマへの意気込みを聞いた。
WOWOW連続ドラマWに再び戻ってきた三上は、「スポンサーありきのドラマでは、いろんな“大人の事情”が絡んで、なかなか実現出来ない企画ばかり。僕らも単なるお金などの問題ではなく、もの作りとして楽しんで、そしてチャレンジしています」と、役者としての気概を見せている。
三上が演じる御子柴は、どんな罪名で起訴されても必ず執行猶予を勝ち取るが、依頼人から巻き上げる報酬も法外で悪評が絶えない弁護士。演じるにあたり「どう説得力を持たせたらいいか?」と悩んだと話している。「この物語は法廷劇であり、刑事ドラマであり、正義や贖罪とは何かを問う人間ドラマでもあるため、1つバランスがおかしくなると整合性が崩れてしまう。青山(真治)監督との綿密な打ち合わせも行いました。お客さんは、お金と時間も使って見てくださるわけですから、出来うることは全部やりたかった」。
これまで主演した作品を見れば、事前に相当な準備をして現場に臨んでいることは、一目瞭然だ。しかし、三上は、こう語る。「僕は“役作り”という言い方をしないようにしていて、役は“作る”ものではなく“生まれてくる”ものだと思っています。自分をなくす、自分を捨てる――顔や身体、声は変えることができないから、全部空っぽにして、台本を隅々まで読むことで、自然に役が身体に入ってくる、そんな感覚なんです。自分の美意識や美学なんて、どうだっていい。髪型、服装、歩き方、声色…そういうものを全部変えて、作品を立たせたい。それが僕のモチベーション、生きがいでもあります」。
本人いわく“時代に即さない役者”。だが、こうしたシステマチックな時代だからこそ、三上のような不器用な役者がいることが、観る者にとっての希望なのだ。「実は、30代のころ役者を辞めようと思ったことがあります。“こんな世の中で、いいもの作りができるのか”と憤っていましたし、“自分にできることは何なのか?”と絶望していました。そんな時、本当に良い作品を届けようとチャレンジしていたWOWOWさんが、『交渉人』で声をかけてくださって、初の連続ドラマである『パンドラ』にも呼んでいただけた。あれから、おおよそ10年。『贖罪の奏鳴曲』は、僕にとってひとつの節目であるし、勝負の作品だと思っています」。
自分に対しても社会に対しても正直に誠実に、もの作りに邁進する。それが役者・三上博史の揺るぎない信念であり、彼を突き動かす原動力となっている。「役に殉ずる、役に自分を捧げることが僕の仕事だと思っています。とにかく、お客さんに楽しんでいただきたい。2時間ないし1時間の時間を使ってよかった、そう思っていただければ本望ですね」。【取材・文/橋本達典】