永作博美、人生に向き合う方法とは?

インタビュー

永作博美、人生に向き合う方法とは?

能登半島のさいはての地にて、香り立つおいしいコーヒーで人々を迎える女主人。『さいはてにてやさしい香りと待ちながら』(2月28日公開)で、永作博美が演じた吉田岬は、凛とした佇まいが美しい。

メガホンをとったのは、ホウ・シャオシェン監督の弟子で、エドワード・ヤンの後継者とも言われるチアン・ショウチョン監督。永作にインタビューし、「とても良い出会いだった」という現場の撮影秘話を聞いた。

「さいはてにて」という言葉どおり、本作の舞台は、石川県能登半島の最北端である奥能登。東京から故郷の奥能登に戻ってきた吉田岬(永作博美)が、海辺の舟小屋を改装して焙煎珈琲店を開き、シングルマザー、山崎絵里子(佐々木希)や彼女の子どもたちと交流していく。それぞれの心の繊細な動きをすくい上げた本作は、味わい深い人間ドラマとなった。

チアン・ショウチョン監督の現場について永作は「低予算の映画だったから、みんなすごく大変そうでしたが、みんなが力を合わせた感はありました」と振り返る。「監督の演出を聞いて、すぐに信頼感はできたので、信じてついていこうと思いました。一番の課題は、一生懸命監督寄りの方向へ行くことだったので、自分の持っているものをすべて捨てたいと思って臨みました」。

チアン・ショウチョン監督の演出は、1カットの長回しをするケースが多かった。「そもそも私は、通してやってもらうのはすごく有難いタイプなんです。監督は、脚本に書かれていることをすごく俯瞰で見ていて、信じていました。だからこそ、細かな細工をすることなく、真っ直ぐに前を見た作品になった気がします。それによって、奥能登の景色の美しさが妙に出た感じがしました。日本の景色が、潔く真正面から撮られているなあと思います」。

共演の佐々木希は、舞台挨拶などで1カットの長回しや、初のシングルマザー役に大苦戦したと告白している。佐々木について永作も「難しかったと思います」とねぎらう。「役にリアリティがあったので、細かな芝居を要求されない分、存在感を示していくしかないお芝居になっていくから。でも、佐々木さんは非常に素直な方で、一生懸命、監督の言われているところに届こうと頑張っていました。実際に、どんどん佐々木さんらしい絵里子になっていったと思います。だから、『楽しんだ方が良いよ』とは言いました。監督は私たちをすごく自由にしてくれたので、私も楽しみました」。

チアン・ショウチョン監督について、永作は「すごく自立しているような印象のある人。年は私と変わらないんですが、すごく頼もしかったです。すべてにおいて、斜めから見てないってところが素敵で。この作品で、監督と出会えたことが、私にとって大きかったです。監督の演出により、また新しいお芝居の世界が見えたから。よりマイナスにする方法をやらせてもらったので、そこで得たものはたくさんありました」。

本作で、岬や絵里子は、自分で人生を切り開いていこうとする。永作自身も「自分を信じて生きることが大事」だと言う。「自分を疑っちゃダメだと思います。そういうふうに思った時、自分を信じてあげられる心の強さみたいなものをもって生きると、もっと前が見えてくるようになるんじゃないかなと」。

さいはての地で、日本海に面した焙煎珈琲店を営む吉田岬。岬は、孤高の女性ならではの強さと共に、荒波に向かい、時には折れそうになるようなナイーブさをも内包している。そのキャラクターに、永作博美という女優がかもす人生観も投影され、本作はより心を震わす作品になったのではないどうか。人間としてきちんと生きること。簡単のようでとても難しいことが、映画のなかで表現されている。【取材・文/山崎伸子】

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