『ソロモンの偽証』過酷なオーディションを激白!
ベストセラー作家・宮部みゆきが構想15年、執筆に9年を費やしたミステリー巨編を二部作で映画化した『ソロモンの偽証』。『ソロモンの偽証 前篇・事件』がいよいよ3月7日(土)より公開となる。成島出監督のもと偉大な原作に挑んだのは、1万人にも及ぶ候補者の中から、1年に渡る選考・研修期間を経て選ばれた新鋭33人。
真実にたどり着こうともがく14歳をそれぞれが体当たりで演じ、力強い感動作を完成させた。鮮烈な印象を残すキャラクターに扮した藤野涼子、板垣瑞生、石井杏奈を直撃し、号泣する者も続出したというオーディションの裏側。そして今、彼らの目に映る将来について語り合ってもらった。
クランクアップの心境を振り返ってもらうと、「すごく充実した時間だったなって思うんです。周りには演技経験の多い方もいたので、撮影中はしっかりと根をはって、なんとか自分自身を支えようとしていました」(藤野)、「感謝でいっぱいでした。監督をはじめ、撮影部、照明部、録音部のみなさんなど、全ての方に助けられてあの映画ができました」(板垣)、「心にぽっかりと穴が開いたようでした。みんなと泣いたり笑ったりして、切磋琢磨しながら撮影に挑んで。毎日毎日すごい達成感があったので、『これで終わったんだ』って」(石井)と、それぞれが並々ならぬ充実感を明かす。
男子生徒の謎の転落死をきっかけに、次々と起こる不可解な事件。中学生たちが「校内裁判」によって、その隠された真実を暴こうとする物語だ。事件のミステリーはもちろん、14才たちの見えざる心の闇、葛藤が次第に明らかとなる様は緊張感にあふれ、思わず息をのむほど。
オーディションと演技ワークショップが並行して行われるという異例の選考方法だった。主役を手にした藤野は、こう述懐する。「オーディションでは、いろいろな役をやりました。男女それぞれ、性別も違う役柄も演じて。私はあまり感情を表に出すのが得意な方ではないので、大出くん役をやるときは大変でした」。なんと、劇中では清水尋也が演じた暴力沙汰の絶えない不良・大出役もやらされたとか。「監督がその中で言いたかったのは、相手の気持ちをよく考えて演じろという意味だったと思います」。
イメージと全く違う役柄に扮したのが、「E-girls」のメンバーとしても活躍する石井だ。ニキビに悩む陰湿な少女・樹理役を演じたが、「『ニキビがついていると思って、樹理に悪口を言って』というワークショップを行った日もありました。ホワイトボードが用意されて、みんながそこに『ニキビお化け』とか『汚い』とかどんどん樹理の悪口を書いたり、実際に言われたりして。そうされると、樹理がどんな気持ちだったのかを本当のことのように感じることができました」。
いじめについて考えるよう攻められたり、今までで一番悲しかったことを思い出しながら歌を歌えと言われたこともあったそう。多感な少年・少女にはあまりにも過酷な日々のように感じる。藤野と石井は「一次のオーディションから泣いちゃったよね。みんな号泣していた」と顔を見合わせる。しかしその結果、「みんながみんなの気持ちを理解できるようになった」と三人で声を揃える。また「このメンバーで映画をやると決まったときには、もうライバルではなく、学校の友達以上に一致団結して物事に取り組めるようになっていました」(藤野)とキャスト陣にも固い絆が生まれていたという。
スクリーンに刻み込まれた14才の葛藤は、過酷なオーディションで自らをさらけ出し、演じる役柄にたどり着こうとした彼らのまっすぐな姿と見事にリンクする。重い過去を抱えた神原役を演じた板垣は「僕は今まで、演技に対してそんなにプライドを感じていなかったんです」と告白。「今回の映画を経て、自分自身が変わったと思います。やっぱり1万人の中から選んでいただいて、これから自分が俳優としてやっていくなら、その方たちにも恥じないような自分でいたいと思いました」。
石井も「顔にニキビをつけて演技をすることも、髪の毛を切ることも全く抵抗がなかった。毎日ニキビをつけるので、みんなより早く現場に入って(笑)。そういった全てが楽しい思い出です」と清々しい笑顔。大役を演じきった今、それぞれが「役者として生きていきたい」と確固たる意志が生まれたという。
最後に目指す俳優・女優像を聞いてみた。藤野は「私はまだ演技経験がなく、この作品が第一歩です。しいてこの方を目標にという方はいないのですが、とにかく『ノー』と言わない女優になりたい。なんでもできる女優になりたいです」とキッパリ。板垣は「今回共演させていただいた小日向文世さんのようになりたい」、石井は「尊敬しているのは、お母さん役を演じた永作博美さん。監督にも『永作さんみたいになれ』と言われていました」とキラキラとした瞳で将来を見つめる。
思春期特有の鋭い感性、瞬間を捉えた『ソロモンの偽証』。役者として歩き始めた彼らの、宝物のような瞬間を捉えた作品を見逃すわけにはいかない!【取材・文/成田おり枝】