大沢&石原、『風に立つライオン』に懸けた思い
きっかけは、さだまさしが1987年に発表した楽曲の小説化と映画化を大沢たかおが熱望したこと。長い歳月をかけ、その思いは1本の映画として結実した。それが3月14日(土)より公開される『風に立つライオン』だ。
本作に並々ならぬ思いで挑んだ大沢たかおと、出演したことで「人生観が変わった」と言う共演の石原さとみ。2人は、アフリカ・ケニアロケにどんな思いで挑んだのだろうか。
大沢が演じるのは、ケニアの医学研究所に派遣された医師の島田航一郎。航一郎は、実際に国際医療ボランティアとして活動してきた実在の医師・柴田紘一郎がモデルになっている。石原は、航一郎と共に、戦傷病院で働く看護師・草野和歌子に扮した。
さだまさしの小説の映画化作品『解夏(げげ)』(03)と『眉山 びざん』(07)に出演した大沢は、さだとも親交が深い。楽曲「風に立つライオン」について「曲のエネルギーがここまで育ててくれたすべての原動力です。時代を超えたいろんなメッセージが込められています」と力強く語る。
石原は、テレビの番組でこの曲を知った。「切なくてちょっと悲しい素敵な歌詞だなあと。映画化されることは知っていたけど、まさか自分が出演できるとは思っていなかったし、三池組に参加できるということもうれしかったです」。
大沢は、航一郎役を演じられた喜びをかみしめる。「すごい作品に出させてもらったなあと。本当に俳優をやっていて良かったと思いました。もし、これが自分じゃなかったらすごく嫉妬して寝られなかったかもしれない。試写を見た帰り道で、スタッフにも言ったのですが、もしも自分でない俳優さんがこの役をやっていたら、果たしてこの仕事を続けられたかなあと。それくらい、とても大事な作品です。それは、監督やプロデューサー、みんなの力だと思います」。
石原も神妙な面持ちでうなずく。「私の撮影は、アフリカのブロックだけだったのですが、完成した映画で私が出演していないシーンなどを見て、温かい涙が出ました。自分が出演していると、気恥ずかしさを感じることが多かったのですが、一瞬にしてこの世界に入り込めましたし、終わった後、震えましたから。映画としてももちろん感動しましたし、何か自分が生きていることへの感謝の気持ちを感じたんです」。
大沢は、今回の撮影で受け取ったものがたくさんあったようだ。「航一郎役は自分の人生にとってとても貴重な役だったと思うし、とにかく感謝しかしていないです。彼だけではなく、和歌子という人間から現場で受け取った女性の意志みたいなものや、航一郎を待って、人生を決断する女性(真木よう子が演じた恋人)の気持ちなど、いろんなものに対して。それは人間という存在の素敵さというか、人間ってなかなか上手くいかないんだけど、それでも輝こうとしている人たちばかりで、彼女たちにふれながら演じることができてすごく良かったです」。
大沢は、現地で出会ったケニアの子どもたちとの交流も楽しんだ。「現地の子どもたちは、いわゆる子役さんじゃなくて、本当にアフリカのスラムのひどい環境にいる子どもたちなんです。彼らは、そこでごはんを食べられること自体がうれしくてしょうがないんです。ペットボトルの水1本を見てもびっくりしちゃうし、それをみんなで分け与えて飲むような子たちで。彼らとふれ合えたことが本当に良い経験でした。僕の心を開かせてくれたのは、航一郎役をやったからこそで、役に感謝しています」。
石原も、和歌子を演じたことで、自分自身の人生への向き合い方が変わった気がすると言う。「無償の愛って大事だなと感じました。和歌子はすごく自立した女性で、両親を亡くし、自分の意志でアフリカへ来ている。異国の地の風は強いけど、ちゃんとひとりで立って、立ち向かっている。そして、航一郎のように風に立つライオンでありたいと思っている。そういう生き方が尊いというか愛おしくて。私は帰りの飛行機のなかで、無力感のようなものを感じたのですが、それでも成田に着いた時、何か背筋が伸びた気がしました。ああ、私もへこたれずに生きて行こうと思えました」。
2人の凛とした表情を見るだけで、本作に懸けた情熱が伝わってくる。ケニアの大地で、大沢は医師・島田航一郎として、石原は看護師・草野和歌子として力強く生きた。その生き様は、いまを生きる私たちに、何か大切なものを訴えかけてくる。【取材・文/山崎伸子】