浅田次郎の「王妃の館」は実体験を基に書かれた!?
浅田次郎の人気作を、水谷豊を主演に迎え実写化した『王妃の館』が4月25日(土)より公開。これまで「鉄道員(ぽっぽや)」、「壬生義士伝」など多くの作品が映画化されている浅田に、原作の裏話、本作の感想を聞いた。
映画化は不可能といわれてきた「王妃の館」とあって、自身も初めは信じられなかったと話す。「舞台はパリだし、さらに現在と過去を行き来しますから、日本映画ではまず無理でしょう。だから最初に話が来たときは、まったく信じていなかったですね。それがとんとん拍子に話が進み、いつのまにか“ほんとに出来ちゃったの?”という感じです」と笑う。
これまで多くの著作が映画化されてきた浅田だが、映画と小説とは別のものとして接するという。「一本の映画として客観的に見ています。ですから“ここがどうだ、あそこがどうだ”という見方はせず、逆に“こうなるのか”と感心させられることが多いですね。内容もお任せしますが、ストーリーが書き換えられていたり、訴えたかったテーマが違っていた時にはお断りしています」。
本作の主人公はベストセラー作家・北白川右京。原作では雑誌の“抱かれたい作家No.1”にも選ばれる人気者というイメージだが、映画ではおかっぱ頭に花柄の衣装と個性的な姿で登場する。
「実は小説を書くときは、北白川右京がどんな顔でどういう服を着ているのか、まったくイメージしませんでした。多少は外見を書いても、必要なのは人格ですから。だから、あの姿を見たときは“こう来ましたか、ほう!”と(笑)」。
そんな北白川右京に水谷豊というキャスティングにも感心したとか。「水谷さんは同年代だし、僕もずっと親しみを感じながら見てきました。すごく達者な役者さんで、これまでいろんな役をこなされています。本格的なコメディは記憶にないですが、たまに見せるコミカルな演技も素晴らしいじゃないですか。徹底的なコメディを演じられたら、とても面白いだろうと思っていました」。
本作は高級ホテルの宿泊客が、部屋の異変に気づいたことから巻き起こる大騒動が描かれる。そのアイデアは実体験を基にしているという。
「ある高級ホテルに泊まった時、部屋に戻ったら灰皿に誰かの吸い殻が残っていた。その翌日にはテレビが点けっぱなしだったんです。まさかホテルが部屋を二重貸ししているのかも…なんて思ったのがきっかけ。真相はわからずじまいですが、小説の神様がいたんでしょう(笑)。おかげでいいものを書かせてもらいました」。
パリを舞台に、ワケありツアーに参加した面々の人間模様を笑いと涙で描いた『王妃の館』。浅田文学をどう料理しているか、じっくりと味わって欲しい。【取材・文/神武団四郎】