『インサイド・ヘッド』の監督が打ち明ける製作秘話
ディズニー/ピクサー作品は、とんでもない奇想天外な物語を、実に丁寧に見せてくれる。『インサイド・ヘッド』(7月18日公開)で描かれているのは、人間の頭の中の世界だが、その構造はディテールまでとことんこだわり、説得力があるし、ラストで感動の境地に導いてくれる点もニクイ。本作で来日したピート・ドクター監督と、ロニー・デル・カルメン共同監督にインタビューし、気になる製作秘話について話を聞いた。
ピクサー長編アニメーション20周年記念作品という冠つきの本作を手がけたピート・ドクター監督は、『モンスターズ・インク』(01)や『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)などのヒットメーカーだ。
ピート・ドクター監督は、ロニー・デル・カルメン共同監督について「ストーリーは、ふたりで発見して作り上げていったよ。ロニーは、人格や感情など、ふわふわしていて、雲をつかむようなアイディアに形を与え、物理的なものにしてくれた。彼はそういうすごい才能をもっている」と、共同監督に花を持たせる。
本作で監督デビューを果たしたカルメン共同監督は「ピートと組ませてもらえたことは、まるで、宝くじを買って当たったくらい、大きな喜びだったよ。彼はピクサーのなかでも最も尊敬されている監督のひとりだし、その彼が僕を選んでくれたわけだから」と興奮しながら話す。「ピートとのパートナーシップを組んだことで、彼のやり方や、スタッフの率い方を学びつつ、今回大きく成長することができたんじゃないかと思っている」。
『インサイド・ヘッド』では、11才の少女ライリーの頭のなかにある5つの感情“ヨロコビ”“カナシミ”“イカリ”“ムカムカ”“ビビリ”が描かれる。感情たちは、ライリーを常に守ってきたが、いつも明るくポジティブなヨロコビは、ライリーを悲しませるカナシミの存在価値がわからない。
意外にも、物語を描くうえで、いちばん苦労したのが、ヨロコビというキャラクターだったとピート・ドクター監督は言う。「デザイン的観点からの話ではなく、キャラクターとして、脚本的に難しかったよ。誰もが幸せでありたいから、ヨロコビという気持ちをもっていたいと思ったので主役にしたのだけど、ずーっとハッピーな人って、ちょっと辛いというか、引いてしまわない?だから、ヨロコビで満ちている以外のバランスが必要で、それを極めるまでが大変だった」。
確かに、ヨロコビは、カナシミとセットになって動くから、バランスが取れているのかもしれない。2人で冒険を繰り広げていくことで、本作の深いテーマが見えてくる。
もう1つ、ライリーの想像上のキャラクター、ビンボンがとても味わい深い。ビンボンはヨロコビのピンチを救ってくれるのだが、その展開に心を打たれる。ピート・ドクター監督は「ビンボンは、ヨロコビを鏡で映したようなキャラクターにしたいという意図があった。小さな子どもの親は、子どもの成長を願いつつも、いつまでも子どものままでいてほしいという思いも抱いている。ヨロコビにもライリーに対して同じような気持ちがある。それをすごく誇張したものがビンボンだ。ビンボンは子ども時代の象徴でもある一方で、犠牲を払うことでライリーが大人になれるという意味もある。とても切ないんだけど、それは、同時に大人になることの切なさも表現しているんだ」。
ピート・ドクター監督は「デザインはどうだったっけ?」とカルメン共同監督に振ると「最初から空想を働きかけるものにしようと言っていたよね」とうなずく。ビンボンのゾウのような造形は、ピート・ドクター監督の子供時代の空想の動物から来ているそうだ。「子どもとゾウは愛称が良いんだ。娘もゾウが好きだよ」と笑顔で語ってくれた。また、ピンク色は監督の好きなワタアメの色だそうだ。
全米では6月19日に公開され、公開3日間で9044万ドルを突破し、完全オリジナル映画としては『アバター』(09)を引き離して、歴代ナンバー1のオープニング記録を達成した『インサイド・ヘッド』。頭のなかという未知なる世界観を、ここまでクリエイティブに描き、きちんと琴線にふれる人間ドラマに仕上げたピート・ドクター監督たちの手腕には脱帽する。是非、大きなスクリーンで、この見たことのないワンダーランドを堪能していただきたい。【取材・文/山崎伸子】