塚本晋也監督、最新作で「トラウマになってほしい」

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塚本晋也監督、最新作で「トラウマになってほしい」

第2次大戦末期を描いた大岡昇平の同名戦争文学を、『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『KOTOKO』(11)の塚本晋也監督が映画化した『野火』の初日舞台挨拶が7月25日に東京・渋谷ユーロスペース2で開催。主演も務めた塚本監督と共演したリリー・フランキー、森優作、音楽を担当した石川忠が登壇した。

14年9月に開催された第70回ヴェネチア国際映画祭でワールドプレミア上映された本作。自主製作・自主配給で初日を迎えたということもあってか、塚本監督は満席で立ち見が出た客席を万感の思いで見渡し、「いやぁ、ついにこの日が来てしまいました。どうしてもお金が集まらない中で作ると決めて動き始めたのですが、ボランティアのスタッフやキャストに協力してもらい、お金がない中でここまでやってこれた。皆さんの熱い思いのおかげです」と笑顔を浮かべた。

客席から「リリーさん」と声をかけられ、「今の言われたの、初めてです(笑)」と照れくさそうに挨拶に立ったリリーは、「監督の、作品を映画化したいという長年の思い、戦後70年のこの季節に公開したいという気持ちを受けて、お手伝いができればと思って参加しました」と明かし、「やっと今日が初日ということで、上の階では『女囚さそり』を上映しているにも関わらず、こんなにたくさんの方に来ていただいて…。本当は中村達也もここにいるべきなんですけど、今日はデリバリーのピザのバイトで苗場に行っていて、皆さんによろしくお伝えくださいとのことでした(笑)」と会場の笑いを誘いながら謝辞を述べた。

音楽担当の石川は目に涙を浮かべながら「観て下さってありがとうございます」と頭を下げ、「内容は戦争なんですが、人間を掘り下げたものになっているので、できればより多くの人に見ていただきたい作品になっています」と語った。この日の司会を務めた配給・宣伝担当の映画ジャーナリスト、中山治美氏も公開までを振り返りながら思わず涙ぐみ、リリーが「戦争をテーマにした映画で、こんなに涙と手作りにあふれた初日はないですよ」と、温かい雰囲気に包まれた。

食料もない戦地で、日本兵たちが常軌を逸していく姿を描いた本作。「この『野火』を観た人でグロいって言う人がいるんですけど、僕は全然そう思わなくて。多分現実のほうが圧倒的にもっとグロいんですよ」とリリーが語ると、塚本監督が「10年前くらいに戦争体験者の方にお話を伺ったんですけど、それが本当にすごかったんです。それに少しでも近づけようと、まだ足りない、まだ足りないとやりました。70年も経ち、戦争体験者の方が少なくなっていますが、その方々の“声”を染み込ませた映画という方法で、若い人には“いいトラウマ”を受けてほしいですね」と、いま、この時期に戦争を題材にした本作を観る意義を訴えた。【Movie Walker】

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