今年のカンヌを制したミヒャエル・ハネケ監督の驚くべき“奇才”っぷり
第62回カンヌ国際映画祭・最高賞パルムドール受賞作『ザ・ホワイト・リボン』のミヒャエル・ハネケ監督って知ってる? この監督、いろんな意味で相当ヤバイ。独自の作風で人々を混乱の渦に陥れる“奇才”中の“奇才”なのだ。
ハネケ監督作の特徴を挙げるなら、後味の悪さ、言い知れぬ不快感だろう。たとえば、彼を一躍有名にした『ファニーゲーム』(97)。ある普通の家族がふたりの若者に暴力を振るわれ、無残になぶり殺されていく。しかも淡々と。彼らがその家族を殺したいと思う動機なんてなく、“たまたま”若者たちの殺人ゲームの的になっただけ。こ、怖い……。不謹慎だが、恨みや復讐目的で殺してくれたほうがまだマシ、とさえ思ってしまう。
この『ファニーゲーム』は、ちょっとした騒ぎにまでなった。カンヌ映画祭の上映時、過激な内容に衝撃を受けて席を立つ観客が続出。各国で物議を醸し、ロンドンではビデオの発禁運動まで起こった。えげつなさ、不条理さ、理不尽さは、ハネケ作品群の中でもダントツ。なので、ハネケ自身がハリウッドで『ファニーゲーム U.S.A』(08)としてリメイクしたときには本当にたまげた。
ハネケ監督が描くのは、殺人、暴力、自殺、崩壊といった“負”の要素のオンパレード。しかし、いわゆるサイコキラーものやバイオレンスものとは一線を画す。ドラマチックな展開は望めない上、長回しでじりじり攻められ、緊迫感でがんじがらめにされる。でも気づいたら……、得体の知れない“画(え)”の力にやられてしまう。恐るべし、ミヒャエル・ハネケ!
とはいえこのハネケ監督、映画監督デビュー作『セブンス・コンチネント』(89)以来、新作を発表するたびに各国の映画祭で何かしら賞をとっていて“巨匠”とまで言われている。とりわけ、カンヌ映画祭とは非常に相性がいい。以前も2001年の『ピアニスト』でカンヌ映画祭審査員特別グランプリを受賞し、主演のブノワ・マジメルとイザベル・ユペールの両者にも賞をもたらした。また、2005年の『隠された記憶』では監督賞を受賞している。
さて、今回カンヌで、パルムドールと国際批評家連盟賞も受賞した『ザ・ホワイト・リボン』は、第一次世界大戦前夜のドイツのある村で起きた事件を描いた意欲作だ。村が底知れぬ悪意に満ちていくという、いかにもハネケ監督好みのいや〜な感じの設定のよう。でも“怖いもの見たさ”でそそられた方、ぜひ体調のいいときにどうぞ(苦笑)。【MovieWalker/山崎伸子】