【第53回NY映画祭】伴侶が見つからないと動物化!?衝撃のカンヌ受賞作とは

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【第53回NY映画祭】伴侶が見つからないと動物化!?衝撃のカンヌ受賞作とは

9月26日から開催されている第53回ニューヨーク映画祭で、第68回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『The Lobser』が上映され、ギリシャ人監督のヨルゴス・ランティモスとギリシャ人女優のアリアーヌ・ラベドがインタビューに応じた。

【写真を見る】第53回ニューヨーク映画祭で今年のカンヌ受賞作『The Lobser』が上映
【写真を見る】第53回ニューヨーク映画祭で今年のカンヌ受賞作『The Lobser』が上映[c]JUNKO

不景気のあおりを受け、日本やアメリカなどの先進国では「結婚することが難しい」と言われる時代に突入している。そして、仮に結婚したとしても、離婚や死別など別れはやってくる。そんな時代に、もしもシングルでいることが許されない社会に生きていたとしたら?

同作は、シングルは社会ののけ者とされ、強制的に集められたホテルで45日以内に伴侶を見つけられなければ、自分が望む動物に姿を変えられてしまうという、奇想天外で恐ろしいディストピアSFだ。18キロも増量したコリン・ファレルが妻から三行半を突き付けられたデヴィッド役を演じており、犬に変えられてしまった兄とホテル入りしたものの、伴侶を見つけられずに森に脱出。しかしそこにもまた、過酷な運命が待ち受けていた…という物語が描かれる。

『籠の中の乙女』(09)が第62回カンヌ国際映画祭で「ある視点」賞を受賞したほか、第83回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたランティモス監督が初めて英語で製作した同作には、人気ゲーム「アサシン クリード」の映画化作に抜擢されたラベドのほか、アイルランド人俳優のコリン・ファレル、007シリーズでQを演じているイギリス人俳優のベン・ウィショー、イギリス人女優のレイチェル・ワイズ、最新作『007 スペクター』でボンドガールを演じるフランス人女優レア・セドゥ、アメリカ人俳優のジョン・C・ライリーら、国際色豊かな実力派が名を連ねている。

ギリシャ人監督のヨルゴス・ランティモス
ギリシャ人監督のヨルゴス・ランティモス[c]JUNKO

同作で脚本も手掛けているランティモス監督は、この作品を製作するきっかけについて、「過去の3作品もそうだったが、作品を撮り終えて友人(共同脚本家のエフティミス・フィリップ)と一緒に、『次はどんなテーマにしようか』と話しているうちに、人間同士の結びつきや関係性について描いてみようという話になった。人は常に社会的な成功とか人と人との関係、恋人や結婚、子供といったようなプレッシャーを抱えながら生きている。常にルールに支配されている世界を究極のコンディションにして、カップルという関係を描きながら人がどう生きるか、えげつなさやすばらしさといったものを描きたいと思った」

「厳しい統制下では、ルールに反抗せずにそれを認めながら生きる人と反発する人、そしてそれを統治する人間という関係が生まれてくるが、皮肉なことに、結局そこ(ホテル)を抜け出しても、新たな場所(森)にも別の意味でシステムやルールが存在し、また逃げ出そうとすることになる。行き着くところは何なのか、そういう特異な世界を描きたかった」という。

『The Lobser』に出演したアリアーヌ・ラベド
『The Lobser』に出演したアリアーヌ・ラベド[c]JUNKO

バックグラウンドが違う俳優たちのコラボもすばらしいが、ホテルのメイド役を演じたラベドは独特の演技について問われると、「監督から特に細かい指示があったわけでもないし、ただ脚本を読んで演じたからわからないわ」と苦笑い。するとランティモス監督も「あまりリハーサルの時間もなかったし、俳優さんたちのこともよく知らなかったので、最初はナーバスになった。でも、この作品は特定の土地が舞台になっているわけでもないので、国際色豊かな俳優たちそれぞれが見せてくれた独特のトーンが、すばらしい相性を生み出したのだと思う。あえて言うのであれば、最初から特別なプランもなく、セリフの一つ一つに細かい説明や指示を与えなかった。それがかえってリアリティを与えてくれたのかもしれない」と語ってくれた。

もし自身が動物に変えられてしまうとしたら?という問いには、「私は猫になりたい。あの動きかたが好きなの」と答えたラベド。ランティモス監督は、「鳥だね。自由だからとかではなく、ただ飛べるから」と、ストーリー展開とは裏腹なストレートな答え。そのギャップで、周囲を笑わせた。

女性の人権や権利が叫ばれる中、「過去3作品は、男性主導の映画だったから、あえて今回は女性が牛耳る世界を描いた」というランティモス監督は、記者からの様々な質問について、「意識して作ったわけではない」「そういう受け取り方もあるかもしれない」と感心することしきり。しかしアッと驚くストーリー展開と曖昧なエンディングには、「このエンディングしかありえなかった。究極の愛を見出す人もいるかもしれないし、映画は観る人のもの。終わった後に、観た人たちの頭の中にさまざまな疑問がよぎって、それについて語り合ってもらえることが大事なので、あえて曖昧なエンディングを選んだ」と満足げだった。

ランティモス監督の思惑通り、観終わった後には頭の中が「?」でいっぱいになる作品。あなたなら、どの道を選びますか?【取材・文・NY在住/JUNKO】

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