藤原令子と本郷奏多が感じた「映画館で映画を見る意味」とは?
近年、老舗映画館やミニシアター系の映画館の閉館が相次いでいる。『シネマの天使』(11月7日公開)は、2014年8月に閉館した広島県福山市にあった映画館「シネフ大黒座」の最後の勇姿を映像に残したいとの思いから誕生した映画だ。藤原令子と本郷奏多という若い世代の二人にとって、“古き良き映画館”での撮影はどのような経験になったのだろうか?
シネフク大黒座は122年続いた日本最古級の映画館だ。本作は、閉館間近のシネフク大黒座で撮影を敢行。閉館セレモニーや工事は実際の映像を利用するなど実話とフィクションを交えながら、大黒座に関わる人々の心模様を綴る。主演俳優の二人も、「間もなく閉館する」という映画館に流れる空気をたっぷりと吸い込んだ。
藤原は「大黒座の近くの喫茶店にも寄らせていただきました。ちょうど映画のエキストラ募集の張り紙があって、店主さんと『もうすぐ、映画館がなくなってしまいますね』というお話をさせてもらって。『さみしくなる』とおっしゃっていて、本当に大切な場所をお借りして撮影するんだと気持ちが引き締まりました。クライマックスも実際に近所の方に集まっていただいたんですが、泣かれている方もいて、愛されている映画館なんだなと実感しました」と数々の大黒座への思いを背負って、撮影に挑んだ。
劇場の壁という壁には、大黒座を愛した人たちから感謝のメッセージが書き込まれていたそう。本郷も「壁一面にびっしりと言葉が書かれていた。あれは美術部が作って作れるものではない。愛された場所だったんだということが肌で感じられました」と映画館と人々の絆に胸を打たれた。「それが映像に残るというのは、いいはなむけになったのかな思います。映画は、作品として残るのは100年といわれていて、そうすると大黒座は200年残ることになる。そんな映画館ってきっと他にないと思うので、すごくいいお別れができたと思っています」と、大黒座の最後に関われたことに誇らしげだ。
また本郷は「大黒座は昔ながらの映画館だなと思って。あまり僕はそういうところに行ったことがなかったんです。シネコンは確かに便利でたくさんあるけれど、昔ながらの映画館はスクリーンが少ないからこそ、みんなできっと同じ映画を観ていたでしょうし、人と人とのコミュニケーションツールにもなっていたんだなと思いました。今回、大黒座に行ってみてそういったことに初めて気づけて、映画っていいものなんだなと思えたんです」と映画館で映画を観ることのよさを改めて感じたという。
すると藤原も「映画館で映画を観ると集中できるし、その世界一色に浸れる気がします。これまで私はDVDで見ることが多くて、そんなに映画館に行く方ではなかったんですが、時間を誰かと共有しているってすごいことですよね。この映画の撮影を通して、映画館は特別で、不思議で、神聖な場所だという感覚になって。これからは行きたいなという気持ちになりました」と撮影を経ての変化を語る。
藤原が演じたのは、「この先どうなるのかな?」と漠然とした不安を抱えている大黒座の新入社員・明日香役。藤原は「当時、まさに同じことを思っていました」と自身と役柄を重ね合わせる。「仕事も自分の内面に関しても、このままでいいんだろうかと考えていました」と悩むことも多いというが、「でも考えても結局、やるしかないんですよね。今回、9割苦しいことがあっても、楽しいことが1割あれば『楽しい』に変われるんだなと思ったんです。たくさんの人が関わっていて、観てくれる方がいてと大変な仕事だなと思いますが、本当に楽しいお仕事だと思います」。初主演を果たして、強い気持ちも芽生えたようだ。
一方の本郷は、「物心つかないうちからこの仕事をやっていますが、もちろんその中でも一生やりたい仕事だと思った瞬間も、本当にできるのかと考えた瞬間もあります。でもやっぱり、自分はこの仕事に向いていると思うんです」と自己分析する。「なるべく長く、本作で共演したミッキー(カーチス)さんくらいずっと続けていけたら素敵だなと思います。ミッキーさんはめちゃくちゃかっこいいんですよ!」と大先輩を見上げながら、「役者の立場としては、映画って作ったら手が離れてしまうものなんです。でも今回、映画をテーマにした作品だからこそ、映画が人にどのような思いを与えているものなのかを知ることができて。自分の仕事がいい仕事だなと思えることができました」と晴れやかな笑顔を見せた。
暗がりの中、映写室から射す光を感じて他人と一緒に笑ったり泣いたり、感動したり。映画館とは不思議な空間であり、彼らのいう通り「神聖な場所」であり「愛すべき場所」だ。是非とも大黒座を愛した人々の思いをスクリーンで感じてほしい。【取材・文/成田おり枝】