玉木宏、初の悪役で“爽やか好青年”のイメージを粉砕!
日本映画において、ここまで邪悪で美しいダークヒーローというのも珍しい。主演最新作『MW ムウ』(7月4日公開)で、初の悪役に扮した玉木宏を見て、思わずそう思った。
『ただ、君を愛してる』(06)や、テレビドラマ「のだめカンタービレ」シリーズ、CMなど、“爽やかな好青年”役の印象が強い玉木だが、本作ではいい意味でそのイメージを裏切った。手塚治虫の禁断のコミックを映画化した『MW ムウ』は、16年前に起きたある事件の被害者・結城美智雄が、冷酷なモンスターとなり政府によって隠蔽された事件の関係者に制裁を加えていくという復讐劇だ。
そんな悪役を演じるにあたって、抵抗はなかったのか?と尋ねると「全くなかったです!」とスパッと返事が返ってきた。「いつかはやりたいジャンルだったので。だから現場では、純粋に楽しんで演れました」
完成した映画を見て、どんなふうに感じたのだろうか。「なかなか客観的には観れないんですが、日本ではこういう人物が主人公になるアクション映画自体がすごく少なかったので、きっとお客さんが興奮できる作品になったのではないかと思います」
政府に報復していくという意味では“ダークヒーロー”なのだが、結城の残忍な手口を見ると“モンスター”という言葉がしっくりくる。玉木はどんなふうに、結城役を解釈し、どうアプローチしていったのか?
「僕は最初、悪役というイメージで結城役にアプローチをしたんですが、やってみて少し違ったなと。何が“善”で何が“悪”かということがこの映画の最大のテーマだと思いますが、そう考えると結城がやってることは、彼にとって善でしかない。結城にとっては、復讐することも正義。実は人一倍、正義感が強い人間なのかもしれない」
『MW』で問われる善悪の価値観は、確かに難しいものがある。「もともと答えがないテーマを投げかけているけど、そこが手塚さんの作品の面白いところ。たとえば自分の大事にしている人の命が奪われて、その犯人を見つけたとき、誰しも復讐心って必ず沸くと思うんです。でも、法律に触れてはいけない。だったらもし法律がなかった場合、自分ならどうするだろうかと。答えがないからこそ、考えてみると面白いし、考えること自体に意味があるんじゃないでしょうか」
そんな結城役で、まさに新境地を開拓した彼。「今回、結城という人物を演じられてすごく嬉しかったです。それが手塚さんの作品で、そのなかでもダークな内容のものでできたことでもインパクトは強いと思うし。これまでの僕のイメージは絶対にぶち壊せたんじゃないかと思います。試写会の感想を手紙でもらったりしましたが、なかには『こういう役は二度とやらないでください』って言われたりするんですが(笑)。でも、僕はそうやって思わせたほうが勝ちだなと。爽やかでいい人というイメージもいいですが、僕はそれだけでいようとは思わないんです」
その姿勢は、近年役者としての幅を広げようとする玉木のスタンスでもある。「自分はこうだと決めつけないこと。決めつけてしまうと、そこから出ていけなくなるから。自分がわからない状態がいいというか、わからないからこそ、いろんなものに触れて、自分ってものを見つけようとするだろうし。だから斬新で新しいものに今後もトライし続けたい。いろんなものを吸収し、それを自分のフィルターを通して出していきたいです!」
確かに『MW』のなかの彼は、これまで見たことのない玉木宏だ。ファンにとっては“想定外”かもしれないが、そのスタイリッシュな美しいモンスターには誰もが魅了されそうだ。アクションも物語もスケールの大きい話題作なので、ぜひ大きなスクリーンで、彼の勇姿を観てほしい!【MovieWalker/山崎伸子】