ウェイン・ワン監督×忽那汐里、国際派2人が語る“女”の色気【後編】
(【前編】からの続き)
――完成した映画は、当初、脚本から想像していたものと違っていましたか?
忽那「演じていた時は、美樹と佐原の世界だったのが、映画は(彼らを追いかける)健二の視点で進んでいくので、ずいぶん印象が違いましたね」
ワン「できあがった作品は、編集によっても変わってくるからね。古典的な例を挙げると、犬が死に、その後に少年が泣いているカットが入るのは自然。でも犬の死の後に少年の笑顔が来たら、観客はさまざまな解釈をする。そういう作品をめざしたんだ。最近の映画はシンプルで、観客が想像する余地のないものばかり。映画はマクドナルドのハンバーガーじゃないんだから(笑)」
忽那「撮影の途中で作品の方向も変わっていくので、演じる側からすると、毎日、違った感覚で現場に入れたんです。結末を逆算して演じなくていい。目の前のシーンを成立させることに集中しました」
ワン「それが現実か、主人公の妄想なのかはともかく、私は全シーンをリアルに演出した。あとは観る人の判断に委ねるよ(笑)」
忽那「私もまだ自分で消化できてないので、また観てみます(笑)。とにかく、あらゆる経験が新鮮な現場でした」
ワン「ひとつだけ私が言えるのは、監督の私が佐原のように、美樹というキャラクターに恋して撮ったということだよ」
忽那「ありがとうございます」
――忽那さんは監督と英語でコミュニケーションをとっていたんですよね。
忽那「そうです。日本語でも、英語でも、監督とのコミュニケーションは変わらないですが」
ワン「でも私は、汐里と英語で直接話せるから、ずいぶんラクだったよ」
――海外の監督という点では、忽那さんはホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の『黒衣の刺客』にも出演しています。
ワン「『黒衣の刺客』はアメリカで公開されたバージョンを観たよ」
忽那「撮影は、もう5年前になりますね。私はそんなに出演シーンは多くなかったのですが、ホウ・シャオシェン監督の現場は、台本もなく撮影するので新鮮でした」
ワン「ホウ・シャオシェンといえば、1980年代の前半にエディンバラ映画祭で会ったな。エドワード・ヤン、チェン・カイコーという、今から考えると錚々たる中国系の監督たちが一堂に集まり、4人でフィッシュ&チップスを食べに行ったのを覚えてる。中国人が経営してたレストランだった(笑)」
忽那「ええっ、おいしかったですか? 私が育ったオーストラリアにもフィッシュ&チップスの店がいっぱいありましたけど、日本で食べた時は別物だったし…(笑)」
――監督は、もし次に忽那さんを起用するとしたら、どんな役をやらせたいですか?
ワン「おもしろい質問だね。うーん(しばらく真剣に考えて)、コメディがいいかな」
忽那「えっ、コメディですか? 私、全然、経験ないんですけど」
ワン「だって汐里は、ユーモアのセンスがあるでしょう」
忽那「そうですか? たしかに新しい経験になるかも! でも監督って、マジメに見えるけど、こうやってけっこうジョークをとばしますよね」
ワン「いや、ジョークも半分は真剣。だから汐里とコメディをやりたいのも、半分くらいは真剣だよ(笑)」
【取材・文/斉藤博昭】