レイチェル・マクアダムス、『スポットライト』で感じた意外な反響と映画の力

インタビュー

レイチェル・マクアダムス、『スポットライト』で感じた意外な反響と映画の力

第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』(公開中)に出演しているレイチェル・マクアダムスが初来日。『きみに読む物語』(04)、『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(13)などのラブストーリーで、愛くるしい魅力をふりまいてきたレイチェルだが、本作では、甘さを封印した記者役を演じ、アカデミー賞助演女優賞に初ノミネートされた。レイチェルにインタビューし、本作の製作秘話を聞いた。

世界中に衝撃を与えた、カトリック教会の神父による児童への性的虐待という衝撃的な題材を扱った社会派ドラマ『スポットライト 世紀のスクープ』。レイチェルが演じたのは、この世紀の大事件をスクープした、アメリカの新聞ボストン・グローブ紙の記者、サーシャ・ファイファー役だ。マーク・ラファロ、マイケル・キートンら実力派俳優たちと織りなすアンサンブルドラマが秀逸である。

アカデミー賞授賞式を振り返り「素晴らしい一夜だったわ」と目を輝かせるレイチェル。「本当にうれしかった。伝えたいものがしっかりとあるけど、決して派手ではない映画そのものの勝利だと思った。元々、アメリカでの公開は館数がしぼられていたけど、作品賞を獲ったことで、授賞式の翌日から1500館で拡大公開されることになったのよ。受賞もうれしかったけど、より多くの方に観てもらえることが、すごく意義のあることだと思ったの」。

内容が内容だけに、オファーを受けてから、少しためらいを感じたと言う。「脚本にはとても共感できたけど、宗教にふれているから、敬虔なキリスト教徒の方々が、どんなふうに感じるのだろうと、最初は少し考えてしまったわ。でも、作品が完成してから知ったんだけど、本作を本当にサポートしてくださったのは、カトリック教徒の信者さんのコミュニティだったの。信者さんたちが、信仰心をもちながらも、いけないことはいけないとちゃんと思ってくださった。それでさらにインスピレーションを得たわ」。

本作の共同脚本を手がけ、メガホンをとったのは、『靴職人と魔法のミシン』(14)のトム・マッカーシー監督だ。「トム自身が素晴らしい役者でしょ。だからトムは、役者のことをすごく思ってくれる“アクターズディレクター”よ」。

硬派な作品だが、現場はとても和やかだったと言う。「トムは、本作の脚本家でもあるわけだから、時間をとられてしまいがちだと思うけど、役者1人ひとりに、キャラクターについて、丁寧に話をしてくれたの。現場では、題材に対するリスペクトの念を忘れてはなかったけど、重すぎる雰囲気にならないように、気も遣ってくださった。だから、毎日現場に行くことは、すごく喜びでもあったわ。トムはユーモアにあふれ、すごく優しい心をもっているし、とにかくこの物語を伝えねば、という強い信念や情熱をもっていたの」。

日本人には、あまり馴染みのない題材にも思えるが、十分、心に訴えかける普遍的な物語でもあるというレイチェル。「ジャーナリズムの現状はいま、ちょっと複雑になり、調査報道のような硬派な報道がどんどん減っていったりして、なかなかやりにくい状況になってきているでしょ。そのあたりの事情についても、共感できるんじゃないかしら。もっと大きな意味で言えば、声なきものに声を与える、あるいは、自分で立ち上がることができない人たちの代わりに立ち上がるというような物語でもあると思う」。

レイチェルは、映画が与えた反響には、とても励まされたと言う。「ヴァチカンがあるイタリアのヴェネチア映画祭でプレミアが開催できて、そこでスタンディングオベーションが起きるなんて、予想もしていなかったわ。派手なハリウッドの超大作ではないし、ド派手な演出や演技もない。物語もだんだんと火がついていくという流れでしょ。でも、みなさんがこんなにも指示してくださった。それは、私が役者として、これからもこういう企画に携わりたいという思いにつながったの。まさに、映画の力ね」。

出演作を選ぶ基準については「その物語を自分が伝えたいと思えるかどうか、それに対して情熱を感じられるかどうかが肝心」と話すレイチェル。『スポットライト 世紀のスクープ』では、その手応えを大いに感じた印象を受けた。【取材・文/山崎伸子】

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