玉木宏、“新次郎”から“ミタライ”へ。そのギャップの魅力に迫る!
クールな佇まいに、ストイックな役者魂をみなぎらせる俳優・玉木宏。最新作『探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海』(6月4日公開)では、天才的な探偵・御手洗潔役にトライ。なんでも本作の撮影は、NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」のクランクイン時期と重なっていたのだとか。冷静沈着な探偵・御手洗と、飄々とした心優しき夫・新次郎。対極にあるような役柄をどのように行き来したのか。日本中を笑顔と涙で包んだ新次郎役から得た“学び”までを聞いた。
本作の撮影は2015年4月25日から6月5日まで敢行。「あさが来た」のクランクインは、2015年5月中旬だった。「実は僕の中で一番苦手な時期というのが、作品に入る直前で。頭でっかちになってしまうときなんです。なので、『探偵ミタライ』の撮影の終盤と、朝ドラのクランクイン時期がちょうど被っていた頃は、正直しんどかったですね。撮影が始まってしまえば大丈夫とはわかっているんですが、なかなか辛かった」と集中型の彼だけに、精神的な辛さもあったとか。
島田荘司の人気シリーズ小説を映画化した本作。玉木が演じる、IQ300以上の天才・御手洗が、瀬戸内海近辺で次々と起きる不可解な事件に挑むミステリーだ。「すごく難しい役どころだった」と玉木。「感情の起伏がなくて、淡々としていて。感情的になることもないので、説明セリフの中に彼のキャラクターを埋め込まなければならないという難しさがありました」と苦労を話すが、「今後、俳優という職業を続けてスキルアップする上で、いただいてよかったなと思える役」と充実の表情を見せる。「20代でいただける役ではないし、30代だからこそいただけた役だった。難しいことにチャレンジできたことはとても意味があること」と話す。
御手洗と新次郎。真逆の役に同時期に挑戦したことで、「僕らの仕事は、みなさんに抱いてもらっているイメージを作って、壊して、また新しいものを作っていく作業」と俳優業の面白みも実感した。「答えがひとつではない世界なので、どんな表現もアリといえばアリ。やればやるほど深いし、難しい。作品が変わると環境も変わるので、環境に馴染もうとすると、それはそれで紛れやすいものになってしまう。自分のペースを守りつつ、新しいものを作っていくことが大事」と底知れぬ魅力にすっかりハマっている様子だ。
俳優としてキャリアを重ねる中で、「やれることはやってみよう」との意志を強くしたという。「僕らの仕事は、作品が終わるというひとつの明確なゴールがあるので。それが目標になるんです。たとえ失敗したとしても、その失敗も『次の現場ではこうしてみよう』と思える。いつも『とりあえずトライしてみよう』と思っています」
常にさらなる高みを見据える彼にとって、改めて11か月没頭した「あさが来た」の経験はどんなものになったか聞いてみた。「ひとりの役をあれだけ長い時間をかけて演じたこと。そして、その生涯を終えるまで演じることができたというのは、すごく大きな意味のあること。当然、誰よりもその役のことを考え、つないできた時間でした。『役を演じるというのは、こういうことだよな』と思ったんです」
どんな役を演じる上でも、その人生を丸ごとを感じたい。そんな思いを強くした。「普通の作品では、その役の断片だけを描くことが多いですが、側面だけしか描かれていないにしても、役に説得力を持たせるには、その人のつないできた前後の時間を感じないといけない。今回の御手洗にしても、ある事件に関わる時間しか描かれませんが、御手洗という人には当然、幼少期もあるし、老いていく姿だってあるわけで。そういった時間を考えることが大事だと思っています」
クールに見える彼だが、その中には役者業への情熱が燃えたぎっていた。このギャップもたまらなく魅力的だが、「事件があるとウズウズしてしまう」御手洗にかけて、「これがあると走り出してしまうもの」を聞いてみると、なんと「ベビーカステラ」と回答。「ベビーカステラがあると買っちゃうんです。優しい味ですよね(笑)。(朝ドラの撮影地)大阪でも気に入った店があって、差し入れにしたりして。結局自分が一番食べているんですけど」。やはりこのギャップ、素敵すぎる!【取材・文/成田おり枝】