薬師丸ひろ子『Wの悲劇』での苦悩・奮闘を宣伝プロデューサーが明かす
角川映画の誕生から40年。角川映画祭を開催中の角川シネマ新宿で8月21日にトークショーが行われ、『Wの悲劇』(84)公開当時の宣伝プロデューサーを務めていた遠藤茂行が登壇。80年代の熱気あふれる宣伝手法と、薬師丸ひろ子との思い出を明かした。
「映画を作ることと売ることを、同じエネルギーを持ってやっていた」と角川映画は、当時の映画界では異例だった宣伝手法を試みたという。「メディアミックスの先駆け」としての役割を担ったというが、その中では、大掛かりな宣伝も行った。『セーラー服と機関銃』(81)では、新宿アルタのバルコニーステージで「ヒロコDEデート」という、主演の薬師丸ひろ子が主題歌を発表するイベントを企画。入場制限もないため、約25000人ものファンが波のような人だかりとなって駆け付け、「警察から怒られたけれど、会社には褒められた」と話す。
また同じく薬師丸主演の『里見八犬伝』(83)では、競馬場でのキャンペーンを実施。1日で東京、関西の2カ所で実施するために、「ジェットヘリを飛ばして移動した」とか。『探偵物語』(83)では、「ヒロコーズ」という野球チームを結成。全国7カ所の野球場でイベントをやり、映画の宣伝につなげた。「まともじゃないことをやるというのがモットーだった」と楽しそうに振り返るが、「映画界全体を通してもエポックメイキングな功績」と今の映画界にも影響を及ぼす功績に胸を張る。
薬師丸との思い出は多く、中でも『Wの悲劇』は彼女にとっての転機となったと話す。遠藤は「この作品をやったことによって悩んでしまった」と、薬師丸が女優としてのあり方を苦悩した作品でもあると激白。それまでは学園ものへの出演が多かった薬師丸だが、大人の女性を描いた本作は「1人の女性だったら、どうするか」ということを各シーンごとに問いかけなければならない作品となった。
例えば「指で歯を磨くシーン。あれは本当の薬師丸さんなら絶対にやらない」と遠藤。薬師丸にとって「本来、自分がやってきたこととは明らかに違うこと。別の人間を演じきること」を求められた現場となり、その奮闘や苦悩を見てきただけに、「そのすべてが集約されているラストカットには、現場で見ていてもグッときた。完成作を見て涙した」と述懐。薬師丸のまっすぐな姿勢が伝わる貴重なトークに、会場も聞き入っていた。【取材・文/成田おり枝】