松岡茉優&山田尚子監督が『聲の形』名シーンを発表!「本能をくすぐることが目標」
数々の名作を生み出しているアニメ制作会社・京都アニメーションが、「このマンガがすごい!2015」オトコ編第1位を獲得した大今良時の人気マンガを映画化。映画『聲の形』となって9月17日(土)より公開となる。監督を担ったのは、TVアニメ「けいおん!」で初監督を務めた青春映画の名手で、京都アニメーションに所属する山田尚子。思春期の心を抉り出すような原作をアニメ化する上で、大切にしたこととは?また声優を務めた松岡茉優には、鮮やかな印象を残したシーンについて感想を聞いた。
本作は、ガキ大将だった少年・将也と聴覚障害を持つ少女・硝子が、ぶつかり合いながらも過去の傷や今の自分と向き合い、成長していく姿を描く青春映画。将也の小学生時代の声を任された松岡は「漫画が大好きで、原作も読んでいた」そう。「1ページ1ページをめくるのが重たい漫画。誰にでもある苦い思い出みたいなものとも向き合いながら、読んでいたように思います。すごく成長させてもらった漫画です」。
山田監督は「観た人が許されるような映画にしたい」との思いを抱いて、作品に臨んだ。7巻ある原作を約2時間の映画としてまとめ上げた手腕に目を見張るが、「前・後編にするという案もありましたが、私としては1本にまとめたいと思っていました。脚本の吉田玲子さんのパワーもあるし、大今先生にもいろいろとお話を聞かせていただき、本質を抽出する作業を大事にしようと思いました」とじっくり原作と対峙した。
思春期のむき出しの思いが爆発するような作品だ。松岡は「好きなシーンばかり」と目を細める。「特にこれは映像でなければできないと思ったのは、花火のシーン。硝子がある決断をするシーンですが、画面の揺れ方や、無音になったり、花火の音が聞こえたりして。あのシーンだけ、将也が『硝子!』って呼ぶんですよね。もう、あそこで心臓をグワシッと掴まれました!」。
山田監督は まさにその「グワシ!」の部分を大事にしていたようで、「原作を読んだ時に、生理的な部分に降りてくる作品だと思ったんです。人の感性に寄り添えるよう、本能をくすぐることを目標にいろいろと考えていました」とむき出しの心がぶつかる内容だけに、「観客がどのような匂い、色、波動を受け取るか」という“生々しさ”を意識していたという。
また、観客の本能をくすぐるべく、水や土、空といった自然も輝くような美しさを見せる。「根源、起源に関わるものを表現できる作品だったので、すごくうれしく思いました。花火のシーンもそうですが、どれだけ映像体験として人の心を『グワシ!』とできるのかという挑戦がたくさんできる作品でした」。
新たなチャレンジに充実感をにじませる松岡と山田監督。次々と扉を開き、目覚ましい活躍を見せる松岡にとって、パワーの源となることは何だろう?「私を産んでくれた母が、私のお芝居を見て、笑ってくれたことと泣いてくれたことが1回ずつあるんです。自分のお腹から出てきた子がお芝居をしているのを見るのは、照れくさくもあると思うんですよね。でも泣いてくれた、笑ってくれたということがすごく心に残っていて。母や大事な人たちがそうやって見ていてくれること。そして、『この作品を見て変わりました』などみなさんから言葉をいただけた瞬間が一番、パワーになります」。
「私もそうです!」と心を寄せる山田監督。手がける作品が注目を浴び続けているが、「人をきちんと描いていきたい」とアニメ作りへの意欲を語る。「私はジャンルでものを見られなくて。SFであれ、少女漫画や少年漫画でも、どんな形であれ、とにかく人を無下にしない作品をこれからも描いていきたいです」。【取材・文/成田おり枝】