年老いた母が「死にたい」と言ったらどうする?『92歳のパリジェンヌ』監督&女優が尊厳死の是非を問う

インタビュー

年老いた母が「死にたい」と言ったらどうする?『92歳のパリジェンヌ』監督&女優が尊厳死の是非を問う

「自分らしく生きる」とともに、「自分らしく死ぬ」とはいかなることなのか。高齢化社会に突入し、「家族に迷惑をかける前に死にたい」との思いを胸に秘めている人も多いのかもしれない。10月29日(土)より公開となる映画『92歳のパリジェンヌ』は、尊厳死を選んだあるパリジェンヌの実話をもとに映画化した人間ドラマ。女流監督のパスカル・プサドゥーと、主演女優のマルト・ヴィロランガを直撃し、本作を通して感じた「理想の死に方」について話を聞いた。

2002年、リオネル・ジョスパン仏元首相の母ミレイユ・ジョスパンが、自らの人生を終える日を決め、それを実行した。彼女の娘であり作家でもあるノエル・シャトレが母の決断を綴った「最期の教え」を原案に映画化したのが、本作だ。自身の手で人生を終わらせることを宣言した母と、彼女の想いに向き合った家族が過ごす“最期の日々”を描き出す。

プサドゥー監督は「10年前に『最期の教え』を読んで衝撃を受けた」と述懐。すぐに映像化したいと思ったそうだが、「原作者のノエルからは『まだ心の準備ができていない』と断られました」と明かす。「10年を経て、またお願いしに行ったわけです。するとノエルの方も『いいわ』と快諾してくれて。時を経たことで少し心も落ち着いて、その時のことを距離を置いて見られるようになったんだと思う」。

フランスで公開されるや、本作は「評判もよくて、議論のきっかけにもなった」そう。しかし、プサドゥー監督が「法律を変えて、国が尊厳死を認めるまでには、もっと大きなムーブメントが必要だと感じたわ。政治家たちは、この議論が大きなものになるのを恐れていたように思う」と言うように、フランスでもいまだタブー視されている話題だと話す。

92歳のパリジェンヌ・マドレーヌ役を演じるマルトの演技が素晴らしい。子どもたちにとっては温かな母であり、「病院のベッドで死ぬなんてごめん」という強い意志を持った女性を、ユーモアを交えつつも真実味を持って演じきった。オムツをしている姿や、裸でお風呂に入るシーンもあるが、“老い”をさらけ出すことに躊躇はなかっただろうか?

すると「まったく問題なかったわ」と笑い飛ばすマルト。「オムツをしているのも、あくまでも映画のなかのマドレーヌという登場人物。私自身ではないもの。マルトは家を出る時に置いてくる。私にとっては、役の人物になりきるということが一番大事なことなのよ」と女優魂を見せつける。

プサドゥー監督は、「老いを隠さない女優が必要だったの」と告白。「撮影時、マルトの実年齢は82歳だったので、実はちょっと若すぎると思ったの。なので、目の下にクマを入れたり、シミも付け加えさせてもらって。フランスの女優で、老いをさらけ出せる女優はマルトひとりしかいないわ!みんな10歳、20歳くらいは若く見せたい人ばかりだもの」とマルトに敬意を表すと、マルトは「よかったわ。この役がとっても欲しかったんだもの。これから年老いた役が必要な時は、他の監督も私に電話をかけてきてくれるはずよ」とチャーミングな笑顔を見せる。

インタビュー中も笑いが絶えず、楽しんで年齢を重ねていることが伝わるふたりだが、本作を通して「理想の老い方、死に方」について思いを巡らせることもあったそう。

プサドゥー監督は、自ら死を選んだマドレーヌの選択に「アイディアとしては賛成」と話す。「ただ私は、マドレーヌのように家族に死ぬ日を宣言することはしないと思うわ。子どもたちに死ぬ日を伝えることは酷だと思う」。マルトは「賛成」とキッパリ。「私自身もマドレーヌのような死を選びたい。苦しんでベッドに縛り付けられる必要はないと思っている。延命の必要はないと思っているわ」。

もちろん答えが簡単に出る問題ではない。しかし今、確実に議論されるべき話題を提供してくれる映画だ。ぜひ誇り高きパリジェンヌの“最期”を見届けてほしい。【取材・文/成田おり枝】

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