細田守作品の娯楽性の裏側とは?個人的な思いと客観性の両立
現在行われている第29回東京国際映画祭では、アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」に合わせて全7回のトークイベントを開催中。10月28日の第3回では、初のオリジナル作品『サマーウォーズ』(09)に込めた、細田監督の意外な思いが明かされた。
初期の作品を振り返った第2回に引き続き、対談相手はアニメ・特撮研究家の氷川竜介。細田監督のフィルモグラフィの中でも特に娯楽色が強い『サマーウォーズ』には、パーソナルな部分が作品に色濃く反映されていることが判明した。
「時代劇だろうが、SFだろうが、描かれるのは現在なんです」
『サマーウォーズ』が公開されたのはいまから7年前。当時はガラケーの全盛期で、iPhoneはまだ日本で発売されていなかった。しかし、『サマーウォーズ』にはiPhoneが邦画アニメとしては初めて登場している。細田作品にはその当時の最先端テクノロジーが度々登場しているが、これにはある狙いがあるという。
「『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』でも当時最先端だったISDNを登場させました。映画は後世に残るものだから、あえて最先端のものを避けるのが普通。でも、僕はそこを曖昧にすると、世界観がよくわからなくなると思います。現代、時代劇、SF…と、どの時代を描いても、結局その映画が作られた時代の“今”が反映される。だったら時代がわかるものを刻印した方が潔いかなと」。
「『サマーウォーズ』ってタイトル、じつはすごく非難を浴びたんです」
『時をかける少女』(06)で成功を収めた細田監督が、初のオリジナル作品として挑んだ『サマーウォーズ』。この直球のタイトルにも娯楽色の強い作品を作りたいという監督の意思を感じるが、そこにはオリジナルだからこそ必要となる“客観性”が反映されているという。
「みなさん今では普通のタイトルだと思っているかもしれないですけど、最初はすごく非難されたんです。真面目じゃないって(笑)。『時をかける少女』がヒットした後だったから、『数学の得意な少年』とかにすれば?っていつも雪駄を履いてるプロデューサー(スタジオジブリの鈴木敏夫)に言われましたよ(笑)。オリジナル作品なので、タイトルを見た時点で『娯楽だよ』『ハードル高くないよ』ってわかってもらう必要があったんです。僕は庶民的な良いタイトルだなって思いますよ」。
「『サマーウォーズ』とは違ってうちの親戚はあまり仲良くないんです」
人との繋がりや、ネットワークの在り方を描いている『サマーウォーズ』。特に登場する陣内家は親戚間で仲が良く、絆の強さが印象的に描かれている。そんな親戚の在り方には、モデルがあるのだろうか?
「うちの親戚もこんな感じなのかって思われがちなんですけど、じつはあんまり仲良くなくて…。できれば顔も見たくないって感じで、親戚付き合いを避けたいんですよ。でも、だから『サマーウォーズ』みたいな映画が作れるのかなって思います。自分で納得できる親戚関係って何なんだろうっていう問いが生まれるから」。
個人的な思いを反映しながらも、その状況を客観的に分析できる細田監督だからこそ、彼の映画はいつも高いエンタテインメント性を誇っているのだろう。第4回は彼の現場の姿をとらえたTVドキュメンタリー「プロフェッショナル 仕事の流儀 アニメーション映画監督 細田守の仕事」に合わせたトークが予定されているが、「個人的な思いと客観性の両立」は次回以降も語られるテーマになってきそうだ。【取材・文/トライワークス】