細田守作品は海外にどう受け入れられているのか?その秘密は飾らない人柄にあった
現在行われている第29回東京国際映画祭では、アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」に合わせて全7回のトークイベントを開催中。10月28日の第4回では、『バケモノの子』製作中の細田監督に密着した「プロフェッショナル 仕事の流儀」の後にトークが行われた。同作で初めて知る細田監督の作品へのアプローチや、その人柄など、あまりうかがい知れない彼のパーソナルな部分にもスポットが当てられた。
登壇したのはドイツのニッポン・コネクション映画祭でフェスティバル・ディレクターを務めるマリオン・クロムファス、韓国のアジア・ファンタスティック・フィルムネットワークでマネージング・ディレクターを務めるトーマス・ナム、そして映画監督で映画評論家のイヴ・マイヨールという細田作品はもちろん、日本映画を知り尽くした3名だ。海外の視点から切り込む鋭い質問に細田監督は何を語るのか、その発言をピックアップしたい。
「映画製作にのめり込むと私生活と仕事の境目がなくってしまうんです」
「プロフェッショナル 仕事の流儀」の中で登壇者が気にしていたのが、食事も取らずに机に向かい、絵コンテを描き続けるという、日本人の勤勉さの象徴であるかのようなシーン。「仕事と私生活の境界線はないのですか?」と素直に疑問を投げかけたのはマイヨール氏に細田監督は次のように答えた。
「何十時間も机に向かっているのは一種の異常ですよね(笑)。これから日本の中で働き方について変革していくというのに、時代遅れかもしれません。でも、作っているときは映画の中にのめり込んじゃっているので、私生活と仕事の境目がなくってしまうんです」。
「海外の映画祭で観客の反応を知ったことが作品づくりに役立っています」
いまや数々の映画祭で上映されることの多い、細田監督の作品。とはいえ主人公はもちろん日本人で、物語も日本のものだ。では、作品づくりにおいて、海外の観客のことをどの程度意識しているのだろうか?
「『時をかける少女』の時は海外の方が見るということをまったく意識してなかったのですが、『サマーウォーズ』以降は影響があると思います。映画祭に呼ばれて現地で取材を受けるんですけど、それぞれの国のジャーナリストから『この映画のどこがおもしろいと思ったのか?』『日本とどう受け止められ方が違うのか?』と各国の反応の比較をしながら知る機会ができたので、作品作りにおおいに役立っていると思います」。
「海外の製作環境だとアニメは何年かかるんだろうって(笑)」
『バケモノの子』の上映はフランスの大手配給会社Gaumontが手掛けるなど、海外からの注目度は高く、今後は共同製作の話もあることだろう。「共同製作は流行りだけど、いろいろリクエストが入るのが問題。いつまでも細田監督ならではのスタイルを貫いてほしい」とクロムファス氏はエールを送るが…。
「僕もGaumontが配給してくれるとは思わなかったです。制作を通して海外と交流できるのはうれしいですね。でも実際に海外で製作するとなると、イギリスで週に38時間以上仕事をしてはいけないという法律があった時に、じゃあアニメ製作に何年かかるんだろうって思いましたよ(笑)」。
このイベントに細田監督と一緒に登壇した3人は「素晴らしい監督なのに、素朴で飾らないのところが作品に色濃く出ているんですね」と深い感銘を受けていた。10月29日に行われる第5回のトークショーはその名を一躍知らしめた『時をかける少女』の上映にあわせて行われる。彼にとって転機となった作品の舞台裏など、ここでしか聞けないような貴重なエピソードにも期待したい。【取材・文/トライワークス】