ピクサー史上、もっとも難しいキャラクターはハンク!? 【ピクサー最新レポート5】
大好評発売中のディズニー/ピクサー映画『ファインディング・ドリー』のMovieNEX。その人気の秘密を探るべく米カリフォルニア「ピクサー・アニメーション・スタジオ」に潜入。観るたびに発見をくれるピクサー作品の、遊び心とインスピレーションの源に迫る!第5回は、『ファインディング・ドリー』でドリーのよき相棒(?)として大活躍する、7本足のミステリアスなタコ、ハンクの秘密に迫る。ハンクは物語のカギを握るだけでなく、ピクサーのクリエイターにとっても大きな挑戦だった。
『ファインディング・ニモ』の制作時に115リットルの水槽を社内に作ってしまうなど、ピクサーは徹底的なリサーチを行うことで知られている。キャラクター・アート・ディレクターのジェイソン・ディーマーは、「自分の頭で考えるよりも、本物のほうがずっと興味深いものなんだ。だから、すぐにタコのリサーチを開始したよ」と語る。
「初めて擬態(カモフラージュ)するタコの姿を見た時、『これだ!』と思った。ハンクは時にはバックパックに化け、観葉植物に化ける。小さい穴からでも抜けだせるから、監督のアンドリュー(・スタントン)に“脱走の達人”という設定を提案した。ぺちゃんこになったり、細長くなったりして形を変えられることもね。ハンクというキャラクターに、そういうタコのユニークな特性をすべて盛り込んだんだ」。
また、ハンクの味わい深い顔つきは、ある人物に似せたそう。アンドリューから『ハンクをバド・ラッキーのように、歳をとった感じにしてほしい』と言われた。バドは『トイ・ストーリー』から『カーズ』までずっと関わっていたアーティストで、ピクサー社内のみんなから愛されている人物。人間の歳のとり方をタコに採用するなんて、よく考えたら変だよね(笑)。でもおもしろいアイデアだと思った」。
また、ハンクのために次々と新しい技術を開発したことを、キャラクター・スーパーバイザーのジェレミー・タルボットが教えてくれた。ジェレミーの仕事は、絵をコンピュータのモデルにして、アニメーションで表現できるようにすること。「アンドリューとアンガス(・マクレーン)の両監督は、『ジャングル・ブック』(1968年のディズニー・アニメーション映画)を参考にしたらどうかと提案してくれた。特にヘビのカーの動きが、タコの触手の動きと似ているんだ。触手の動き方、転がるような移動を表現するために、新しい装置を開発した。そのあとに出来たテスト映像に、監督たちはとても興奮していたよ。ようやく彼らが求めていたハンクが見えてきたんだ」。
こうして、自然に動かすシステムを作るのに約1年を要したそう。カモフラージュを表現するためにも、システムを開発した。「タコは細胞一つ一つの形状と色が変わり、層となってカモフラージュを作る。僕らが開発したエフェクトを使うと、赤、青、緑、それぞれの色と質感がぴったり、またはランダムに変化する。このクレイジーな装置のおかげで、美しい変身過程を表現することができた」。
キャラクターにリアルな質感、演技をつけるのはそれからだ。アニメーション・スーパーバイザーのマイケル・ストッカーは「まず水族館でタコを触って、タコの動きの法則性を見つけることから始めた。触手を手に張り付いたタコをはがす、『うわっ』という感触や、30キロ以上あるタコの重みを観客にも感じてほしかったんだ」と振り返る。
ハンクの口は、よく見ると触手の間のひだで表現されているが、これはジェイソンの「顔の正面に描くと漫画チックになりすぎて、『ファインディング・ニモ』のキャラクターとなじまない」という意見から。マイケルはそれを受け、「口を見せないほうが、より魅力的になることがわかった。そうなると巨大な目玉がとても重要になる。すべての演技は目で表現されているんだ」と、ハンクの眼力の魅力を教えてくれた。
最後に、シミュレーション部の出番だ。スーパーバイジング・テクニカル・ディレクターのジョン・ハルステッドが語る。「吸盤がつぶれ、くっつき、そして剥がれる様子を、楽しくかつ本物らしく表現する必要があるんだ。コンピュータでは調整しきれないディテールをつけることで、観客にとってハンクがより本物らしく見えるようになるんだよ」。
並々ならぬ情熱と苦労で作り上げられた過程を知ると、キャラクターにより愛着が湧いてくる。MovieNEXに収録されたボーナス映像「チーム・ハンクの挑戦」でも、モントレーベイ水族館でのリサーチや、ハンクが出来るまでの舞台裏を詳しく知ることができる。【取材・文/MovieWalker】