アニメーション映画のヒットの要は“ストーリー・イズ・キング”にあり!?【ピクサー最新レポート7】
大好評発売中のディズニー/ピクサー映画『ファインディング・ドリー』のMovieNEX。ピクサー作品の遊び心とインスピレーションの源を迫るべく、米カリフォルニア「ピクサー・アニメーション・スタジオ」を探訪。『トイ・ストーリー』からピクサーひと筋23年の小西園子と、2015年にドリームワークスからピクサーに移籍した原島朋幸にインタビューを行なった。
「キャラクターを作るにあたってアンドリュー(・スタントン監督)によく言われたのが、『キャラクターなんだけど、魚であってほしい』ということ。『ファインディング・ドリー』は海の中をリアルに描いているので、キャラクターがきちんと泳いでいる魚らしい動きをしていないと、それだけでキャラクターとストーリーに距離が生まれてしまうんです」と原島。
小西は「私は、アニメーションに動きのディテールをさらに付け加える“シミュレーション”を担当しました。例えば人間の髪の毛や洋服、キャラクターの重み、水しぶきのエフェクトなどの細かい部分ですね。原島さんをはじめアニメーターの方々が作ったアニメーションを壊さず、かつ本物らしく見えることを意識しています」と語る。
『ファインディング・ドリー』では、アニメーターは多い時で70~80人が、シミュレーションは13人ほどが参加していたそう。
原島は「タコのハンクの吸盤のくっつき方など、最終的にはシミュレーションの方じゃないとできない部分もある。ただし、本物らしくすることだけが正解ではないので、リクエストを出し合うなど、密にやり取りをします」と言う。「ピクサーは社員の関係性がすごく透明。部署間に壁がないので、情報や技術をどんどんシェアできるんです」と小西。
制作の現場にいるからこそ見える、ピクサー作品の強みは「やっぱりキャラクターの魅力です」と原島が語る。「見た目だけじゃなく、内面も。監督やスーバーバイザーは、それぞれのキャラクターがなにを考えているのかを常に考え、内面を掘り下げていく。その掘り下げ方は、ほかのスタジオとはレベルが違うと思います」
「ピクサー作品は“Story is King”ですが、そのストーリーをサポートするキャラクターがいないとダメで。キャラクターの意思が物語を動かしていくので、監督からは『このキャラクターは、いまなにを考えているの?』とすぐに突っ込まれます。それを考えるのはすごく楽しい作業ですが、大変でもありますね」。
“Story is King”とは、ジョン・ラセターが提唱するアニメーション作りの哲学。ディズニー/ピクサー映画は、アイデア会議からストーリーボードの開発、“スクリーニング”と呼ばれる社内試写まで、何度も何度もストーリーを練り直すのが特徴。100人を超える社員同士で意見交換を行うこともある。
小西も「ピクサー作品が幅広い世代に愛される理由は、絶対にシナリオにあると思います。ピクサーに所属しているのは、もともと実写映画の脚本を書いていたり、ライブアクションのエディターをしていた人がほとんど。たまたまアクターがCGのキャラクターで、それを演出している感覚なんです」と語る。
ジョン・ラセターと30年来の友人でもあるスタジオジブリの宮崎駿監督は、ピクサーとは真逆の制作方法で知られる。脚本は作らず、たった一人で絵コンテを描き上げてきた。『エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』の庵野秀明監督も、宮崎駿の一番すばらしいところは絵コンテだとイベントで語っていたこともある。
日米のアニメーションの違いについて、原島はこう語る。「アメリカではきちんとストーリーを伝えることが重要視されますが、日本のアニメーションは、受け取り方を観客に委ねる部分がある。『エヴァンゲリオン』など、見たあと議論が生まれるものが好まれる気がします」
「あと、日本のアニメーションは、わりと画が止まったままセリフとナレーションで話が進んでいくものや、逆にとにかく画が動いていて『何が起こっているかわからないけれどカッコイイ!』といった表現が多い気がします。アメリカでは、監督が観てほしいところ以外に観客の視点が行くのはNG。カメラワークも計算するのがアメリカ流なので、ギャップを感じることはあります」。
かつてジョン・ラセターが、ストーリーに行きづまったらジブリ作品を観直すとまで語っていたように、違いがあるからこそ影響も与え合える。社会現象となった『君の名は。』の新海誠監督は、ほぼ一人で制作した『ほしのこえ』でのデビュー以来、“新海ワールド”と呼ばれる作家性を発揮してきた。
ただし『君の名は。』は、プロデューサーやスタッフと何度も脚本会議を行なって作られたもの。まさに、主人公と観客の気持ちをシミュレートする “Story is King”を取り入れた成功例と言えそうだ。ピクサーの哲学と日本文化が刺激しあって、世界中に届くアニメーションが生まれるのだ。【取材・文/MovieWalker】