ティム・バートン監督、異端児だった過去「もの作りは浄化作業」

インタビュー

ティム・バートン監督、異端児だった過去「もの作りは浄化作業」

『アリス・イン・ワンダーランド』シリーズなどのティム・バートン監督が手がけるファンタジーは、観客を常に未知のワンダーランドに連れていってくれる。最新監督作『ミス・ぺレグリンと奇妙なこどもたち』(2月3日公開)もしかり、秘密の楽園で胸躍る冒険が繰り広げられ、気がつけば童心に戻ってその世界観に入り込んでいた。来日したバートン監督を直撃し、本作の製作秘話を聞いた。

『ヒューゴの不思議な発明』(11)のエイサ・バターフィールド演じる主人公ジェイクは、周囲に馴染めず、学校でもちょっと浮いている少年だ。ある日、ジェイクの理解者だった祖父が謎めいた死を遂げる。ジェイクは祖父の遺言に従い小さな島を訪れると、ハヤブサに姿を変えられるミス・ペレグリンと共に、個性的な子どもたちがひっそりと暮らしていた。

子どもたちはユニークな特殊能力を持つ子ばかり。たとえば空中浮遊能力や、おもちゃなどの無生物に命を吹き込める力、指先から火を放つ力、植物を一気に成長させる力など、さまざまな力を備えている。

そんな子どもたちを狙う謎の集団とのバトルが描かれていくが、特に水中のシーンが圧巻だ。「撮影はとても困難だった。役者も大変で、エイサたちにはダイビングのレッスンも受けてもらった。いろんなセットを作って、中には回転して水が引いていくような状況を作るための大掛かりなものもあった。役者とはマイクを使ってコミュニケーションを取ったけど、すごく苦労したよ」。

CGに頼らず、実際に水攻めを再現したので迫力が違う。監督はもちろん、子役たちの健闘ぶりも称える。「今回幸いなことに不満をもらすような子は1人もいなかったよ。時々、難しい人だと、映画の撮影中にいろんなグチを言ったりするんだ。まあ、水中の撮影だったから、文句を言うこと自体が難しかったのかもしれないね(苦笑)」。

見ている分にはとても愉快な子どもたちだが、静かに身を潜めて生きていかねばならない宿命を背負っている。バートン監督が彼らに向ける目線はとても優しい。「原作の小説を読んだ時、すごく主人公のジェイクに共感したね。まさに自分が10代の頃に経験した感覚だったから。僕も自分がその場に合わないような違和感やぎこちなさを強く感じていた。ただ、ジェイクも含め、他の子たちも奇妙なところを除けばどこにでもいる普通の子どもたちなんだ」。

個性を受け入れていく寛容さを含め、コンプレックスへの向き合い方も提示してくれる本作。バートン監督自身は「私にはもの作りへの道があった。僕は学生時代に短編を作ったり、絵を描いたりすることが、自分の中では浄化作用になっていたんだ」と振り返る。

さらにバートン監督は「これまで僕が組んできた役者さん全員に言えることだけど、どこか奇妙で変わった資質を持っている人が多いのかもしれない」と分析する。

「僕自身、常にオープンマインドでいるよ。だから幸いなことに、僕はいろんな人と出会えてきた。たとえばミス・ペレグリン役のエヴァ・グリーンもちょっと謎めいたところがあるから、今回の役にはぴったりだった。また、ずっと一緒に仕事をしたいと願っていたサミュエル・L・ジャクソンと初めて組めて本当に良かったと思う」。

ミス・ペレグリンの下、血はつながっていないけど、家族のように暮らしている奇妙な子どもたち。バートン監督にとっては映画製作におけるキャストやスタッフも家族のようなものらしい。「長い間大勢でロケをしていることで、ある意味“ちょっと変わった家族”になっていった。まさに劇中の子どもたちと同じような状態になっていたのかなと感じたよ」。

ティム・バートン監督にとってパーソナルな思い入れの強い作品となった『ミス・ぺレグリンと奇妙なこどもたち』。観終わった後、気分が高揚すると共に、周りの人に優しくしようと思えた。【取材・文/山崎伸子】

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