佐藤慶
ドクトル
歯科医院で令嬢と並んで治療を受けた青年の意識内にひそむ潜在欲望を描く。谷崎潤一郎の同名の小説の映画化で、脚本・監督の武智鉄二は、十七年前にも同作を映画化しており最近作には七三年の「ビデ夫人の恋人」がある。撮影は「純」の高田昭が担当。
青年・倉橋順吉は、ある日、歯科医院で美しい令嬢・葉室千枝子に出会う。並んで治療を受け、麻酔の注射をうたれた。霞んでいく意識の中で順吉が見たものはとても信じられないものだった。ドクトルは千枝子を裸にし、胸に歯形の残るほど口づけをせる。喘ぐ千枝子。ディスコで、ホテルで、ドクトルは千枝子を犯し、いたぶった。千枝子はドクトルを憎みながらも、しかし思わず歓喜の声をあげてしまう。見ている順吉に、千枝子への思いはつのるが、どうすることも出来ない。思いつめた順吉は、遂に千枝子を刺し 殺してしまう。千枝子は死んだ。ドクトルから解放されたのだ。意識がはっきりしてくると、治療は終っていた。千枝子はドクトルに挨拶すると、診療室を出た。順吉も彼女を追った。海辺で追いつくと、千枝子は何事もなかったかのように順吉を見つめるのだった。
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