「芸術か、ワイセツか?」物議を醸した『愛のコリーダ』&『戦メリ』で堪能する、大島渚という宇宙|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「芸術か、ワイセツか?」物議を醸した『愛のコリーダ』&『戦メリ』で堪能する、大島渚という宇宙

コラム

「芸術か、ワイセツか?」物議を醸した『愛のコリーダ』&『戦メリ』で堪能する、大島渚という宇宙

世界の中の日本映画、という文脈を考えるにあたり、大島渚(1932年生~2013年没)の名は絶対に欠かせない。
同世代人のジャン=リュック・ゴダールを驚嘆させ、ベルナルド・ベルトルッチが共鳴を示し、テオ・アンゲロプロスにも影響を与えた。国際評価の観点で言うと、黒澤明、小津安二郎、溝口健二といった1950年代に頂点を極めた巨匠と、北野武、是枝裕和、深田晃司、濱口竜介といった1990年代以降のニューウェイヴの間をつなぐ最重要キーパーソンが大島渚である、と位置づけると判りやすいだろうか?

【写真を見る】過激な性描写が問題視された『愛のコリーダ』ほか、19枚のスチールで大島渚の世界を堪能!
【写真を見る】過激な性描写が問題視された『愛のコリーダ』ほか、19枚のスチールで大島渚の世界を堪能![c]大島渚プロダクション

大島渚には長編劇映画24本をはじめ、テレビドキュメンタリーなど数多くの監督作があるが、驚異的なのは各作品のスタイルがばらばらなこと。徹底して「要約をこばむ」作家なのだ。その中でも「最初の1本」、オーシマ入門として最適なのが1976年の『愛のコリーダ』と1983年の『戦場のメリークリスマス』だろう。
両方とも日本を飛び出して、海外製作&マーケットに乗り出したころの破格作。いまの韓国映画の傑作群すらぶっちぎるほど、濃厚にしてゴージャス。「なんでこんな映画が可能だったのか?」と呆気に取られる映画体験になるはずだ。

西欧と東洋の文化的衝突を主軸に置きながら、そこで芽生える奇妙な人間関係を描く『戦場のメリークリスマス』
西欧と東洋の文化的衝突を主軸に置きながら、そこで芽生える奇妙な人間関係を描く『戦場のメリークリスマス』[c]大島渚プロダクション

海外資本を得て、映像表現の限界に挑戦した大島渚

『愛のコリーダ』は日本で撮られた日本の物語だが、これはフランス映画(日、仏合作)である。プロデューサーはアナトール・ドーマン。アラン・レネやクリス・マルケル、ロベール・ブレッソンやゴダールらと組み、のちにヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』(84)、『ベルリン・天使の詩』(87)、『夢の涯てまでも』(91)を手がけて国際進出をサポートした名手だ。


いかにもアートハウス系のエリート然とした経歴だが、同時にドーマンはヴァレリアン・ボロヴズィック監督に『インモラル物語』(74)を撮らせるなど、良い意味での山っ気も持ち合わせている。『愛のコリーダ』は(日本映画では不可能な)本番無修正のハードコアポルノとして撮られた。

『愛のコリーダ』直前の大島渚は大きな転換期にいた。1972年にATG作品『夏の妹』を撮ったあと、政治の季節を駆け抜けてきた独立プロ「創造社」を解散して「大島プロダクション」を設立。また、テレビ番組「女の学校」の司会者を務めるなど、フェミニストを自認し、タレント文化人としての活動を本格化したのもこのころだ。

昭和に実際に起きた「阿部定事件」を題材にした『愛のコリーダ』
昭和に実際に起きた「阿部定事件」を題材にした『愛のコリーダ』[c]大島渚プロダクション

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