小川節子
おさよ
徳川時代の大奥を舞台に、初めての夜伽の時に相手の将軍が頓死したために、一生を戒律の厳しい“尼僧”ぐらしを強いられた女の悲劇を描く。脚本は「官能教室 愛のテクニック」の中島丈博、監督は「白い天使の抱擁」の藤井克彦、撮影は「(秘)弁天御開帳」の萩原憲治がそれぞれ担当。
大奥女中のおさよが、将軍家重の目にとまり、始めての夜伽を命じられた最初の夜、家重は突然、腹上死してしまった。家重の死去で、将軍の手のついた中臈だけは“比丘尼屋敷”に移された。彼女たちは、この屋敷で一生、将軍の冥福を祈らなければならなかった。ある夜、屋敷に逃げこんだ男がいた。禁欲を強いられていた若い彼女たちは、その男の肉体にむさぼりつくのだった。数日後おさよは、叔父の死去で外出を許され、かつての許婚者・敬之介と再会した。しかし、一生嫁を迎えないという敬之介に、後髪を引かれる思いで屋敷へ戻るのだった。やがておさよは老中水野家に放火した犯人が、屋敷に匿っている男・孫三郎だと知るが、現在の彼女にとってそんなことはどうでもよかった。孫三郎はおさよの燃えたぎる肉体を冷ましてくれるからだ。将軍の一周忌が近づいた頃、孫三郎が、過って古井戸に落ちて死んでしまった。このことは隠密裏に処理された。やがて、一周忌参列の使者が屋敷を訪れた時おさよは、あらぬことを口走りながら、遠い空を見つめていた……。