由利徹
大楽
日本全国各地に散在する物語の中から十篇を選び、弥次善多がこれの狂言廻しとなるというオールスターの娯楽映画。大蔵貢が製作・原作・総指揮にあたるほか、監督はそれぞれの物語を一人が担当し、近江俊郎が総まとめに当った。脚色・岡戸利秋、撮影は「坊ちゃんとワンマン親爺」の岩橋秀光。
新東京映画の俳優養成所では大楽所長と北田副所長が生徒を前に、日本の物語から十の物語を選出して全世界に紹介すると発表していた。それは大楽・北田が弥次・喜多となって各地を廻り、ありし日の姿を思い出す仕組である。日本ロマンス旅行の出発だ。間もなく彼らは定山渓にやって来た。--哀調の歌声にアイヌ達が踊っている。セトナは僧定山を慕っているが、酋長の息子ドカニはセトナに惚れた一心で定山を刺し殺そうとする。が誤ってセトナの父ドカニを刺殺した。老人の遺志をついで定山はセトナと共にこの地に温泉を開発した。--玄武丸の船室では北海道長官黒田清隆がクラーク博士を札幌農学校の校長に懇望した。博士は乱れた学校をキリスト教で矯正した。札幌を去る日見送りに来た学生達に「少年よ大志を抱け」という言葉を残して去って行った。--二人は休む間もなく会津若松へ。落城間近い鶴ケ城を目前に飯盛山では傷ついた白虎隊が切腹しようとしている。涙橋の袂では篠田儀三郎の許婚の中野優子が傷兵の看護中で「優子どのさらば」と腹をかき切って叫ぶ儀三郎の声は優子の耳には届かなかった。二人は思わず、これが昔のハイティーンのロマンスかと涙を拭った。--伊豆の下田では黒船が来航、領事ハリスに望まれてお吉はハリスの屋敷に上る。許婚の鶴松が、悲憤の涙を流すというお馴染下田の物語--面作りの名人夜叉王は作った面に死相が現われているので砕こうとする。が時の将軍頼家は出来を賞め、娘桂を所望した。桂は頼家のもとに走った。やがて北条に頼家は亡される。--大宝寺では短気な織田信長が、明智光秀を鉄扇で打ちすえている。中国に出陣途上の光秀は「我が敵は本能寺にあり」と本能寺に攻め込んだ。「人の恨みは恐ろしい部下をいじめてはいけない」「私はいじめられるから安心ですよ」と大楽と北田がやり合った。--難波の宮の高殿に上られた仁徳天皇は、民のカマドから、煙が上っているのを見て、税を三年許し貢物を免じたことの効果があったのを喜んだ。--義朝の愛妾常盤御前は牛若と乙若と共に捕えられた。常盤は自分の体と引換えに子供の助命を清盛に頼んだ。これぞ真の貞女と二人は感激するが、女の「イエス」の偉大さにびっくり。--蝶々夫人は恋人が帰って来るというので三つの坊やを抱いて喜んだ。が意外にもピンカートンはアメリカ人の妻を伴って帰って来た。裏切られた悲しさに蝶々夫人は自殺する。--次はいよいよ最後の四国へ。仏門にある定珍和尚は六十歳の身で十八のおうまと駆落ちした。だが播磨屋橋でかんざしを買って帰る途中岡引につけられ縄をかけられてしまう。--かくて全行程を終了した、大楽・北田の二人は生徒を前に、「果してどの地方の物語が面白く、どの地方の演出、俳優が良かったか皆さんで考えて下さい」と云っていた。
大楽
北田
黒田清隆
ウィリアム・クラーク博士
僧定山
セトナ
ドカニ
アイヌの老人
篠田儀三郎
中野優子
姉竹子
林八十治
永瀬勇次
石田和助
野村駒四郎
唐人お吉
鶴松
ハリス
伊佐新次郎
源頼家
夜叉王
娘桂
娘楓
春彦
下田五郎
織田信長
明智光秀
森蘭丸
安田作兵衛
仁徳天皇
皇后
重臣
民衆のA
民衆のAの父
民衆のAの母
源義朝
平清盛
常盤御前
常盤御前の母関屋
ピンカートン
ピンカートンの妻
子供
おうま
岡っ引
スチュアーデス
スチュアーデス
監督
監督
監督
監督
監督
監督
監督
監督
監督
監督
原作、製作
撮影
音楽
美術
照明
録音
企画
脚色
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