祝生誕100周年!ヌーヴェルヴァーグの巨匠エリック・ロメールの魅力を“再発見”
今年で生誕100周年を迎えた、ヌーヴェルヴァーグの巨匠エリック・ロメール。日本でも幾度となく特集上映が組まれる人気監督の作品が、現在ザ・シネマメンバーズで配信中。美しい自然の映像と軽やかな人間ドラマ…初夏にもぴったりな、ロメール作品の魅力をあらためて紹介したい。
ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォーらが中心となった、フランス映画館に端を発したムーブメント“ヌーヴェルヴァーグ”を代表する作家と言うと、少し敷居が高いと感じるかもしれない。だが、ゴダールやトリュフォーよりも年上で、彼らから“親愛なるモモ”“モモお兄ちゃん”などの愛称で呼ばれていたというロメールの映画は、実に軽やかで、親しみやすいものばかり。“ロメールの弟子”と称される『3人のアンヌ』(12)のホン・サンス監督や、『ビフォア・ミッドナイト』(13)など「ビフォア」シリーズのリチャード・リンクレイター、『マリッジ・ストーリー』(19)のノア・バームバック、『EDEN/エデン』(14)のミア・ハンセン=ラヴら名だたるクリエイターが影響を受けている。
パリの街や郊外のリゾート地を舞台に描かれるストーリーはとてもシンプルで、その根幹を成すのは、恋や愛を巡って繰り広げられる、男と女の、ゴタゴタやソワソワだ。出会いやときめき、すれ違いや心変わりなどに一喜一憂する彼らの姿が、生き生きと映しだされていく。
「六つの教訓物語」や「喜劇と格言劇」シリーズなど、哲学的なテーマを掲げた作品は多いが、ロメール作品の大きな魅力は“会話”にあると言われており、登場人物たちが友達や恋人と交わす会話は、なるほどウィットに富み、時にばかばかしくも真実味を帯びていて、まるで他人事じゃない興味と好奇心をかき立てられる。
『緑の光線』(86)では、独り身の女性が、彼女の寂しさを追い詰めるような女友達との攻防を繰り広げ、『海辺のポーリーヌ』(83)では、まだほとんど恋愛経験のない15歳の少女ポーリーヌが、大人たちの愛を巡る談議に「愛は狂気の一種よ」とつぶやいて参加し、『満月の夜』(84)では、恋人に不自由したことのない女性が「私に欠けてるのは孤独の体験なの」と、男友達に向かって真剣に語る。愛や幸せに貪欲な人々が、思い思いの意見で語るそのさまは、人間味にあふれ、観ている側も自然と惹き込まれてしまう。
そして、恋愛や友情の機微を彩る、鮮やかな映像美にも目を奪われずにいられない。自然光を好んだロメール作品に映しだされるのは、水面がきらめく海辺の輝きや、風にさわさわと揺れる木々の美しさ、雄大で包み込んでくれるような山々の存在感。詩情豊かな自然の中で、生き生きと息づく人々の本能的な魅力…そのピュアでエロティックな姿態のまぶさといったらない。
『海辺のポーリーヌ』や『緑の光線』などのヴァカンス映画も多いロメールの作品は、初夏を迎えたこの時期に、特によく似合う。長い休暇とおいしい食事、愛する恋人や気の置けない友だちと過ごす楽しくて厄介な、緩急に富んだ時間…。人生の歓びが詰まった作品たちを、ぜひこの機会に味わってみてほしい。
文/トライワークス
「レトロスペクティブ:エリック・ロメール」
https://www.thecinema.jp/special/rohmer/
ラインナップ全9作品(順次配信中)
『飛行士の妻』(80)
『美しき結婚』(81)
『海辺のポーリーヌ』(83)
『満月の夜』(84)
『緑の光線』(85)
『友だちの恋人』(87)
『レネットとミラベル/四つの冒険』(86)
『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(92)
『パリのランデブー』(94)