ダルデンヌ兄弟が『その手に触れるまで』で問いかける社会のひずみ…「狂信化した人を救うことはとても難しい」

インタビュー

ダルデンヌ兄弟が『その手に触れるまで』で問いかける社会のひずみ…「狂信化した人を救うことはとても難しい」

移民や貧困、育児放棄など様々な社会問題と向き合い、人々に警鐘を鳴らしてきたベルギー出身の映画監督、ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟。そんな二人の最新作で、2019年のカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いた『その手に触れるまで』が6月12日から公開中だ。オンラインにてインタビューに応じてくれた彼らに、作品に込めた想い、混迷を極める世界に向けたメッセージを語ってもらった。

ベルギーの名匠、ジャン=ピエール(左)とリュック(右)のダルデンヌ兄弟にインタビュー
ベルギーの名匠、ジャン=ピエール(左)とリュック(右)のダルデンヌ兄弟にインタビュー[c]Christine Plenus

本作は、人口の約半分がイスラム教徒であるベルギーはブリュッセル西部のモレンベークを舞台のモデルとして、過激な思想に囚われた少年と、彼を取り巻く人々の姿が描かれる。13歳のアメッド(イディル・ベン・アディ)はどこにでもいるゲーム好きの少年だったが、尊敬するイスラム教の指導者に感化され、狂信的な信者になっていた。そんなある日、彼は恩師でもある放課後クラスのイネス先生(ミリエム・アケディウ)をイスラムの教義から外れた“敵”とみなし、ナイフで襲いかかってしまう。犯行は未遂に終わるが、アメッドは少年院に収監され、更生プログラムを受けることに。
広い世界を知らないまま、誤った正義を断行してしまったアメッド。一つの答えが正解だと思い込み、他者や異なる価値観を受け入れられなくなっている。宗教だけにとどまらない、このような偏向的な考えから抜け出し、変わる道はあるのだろうか…?

過激な宗教思想に囚われた少年はそこから抜け出すことができるのか?
過激な宗教思想に囚われた少年はそこから抜け出すことができるのか?[c] Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

「偏った信仰心は本当に恐ろしいもの」(リュック・ダルデンヌ)

――人々が過激な宗教思想に囚われてしまう背景には、どのような原因があると考えていますか?
リュック・ダルデンヌ(以下リュック)「世界中で格差や不寛容など、様々な問題が広がり続けています。しかし、イスラム教の過激派に限ると、これらとのつながりは希薄だと私たちは考えています。グローバル化が進み、イスラム社会が弱体化しているのが原因なのです。インターネットが普及し、誰もがほしい情報を手に入れることができます。また、女性やLGBTの人たちが権利を求める活動も活発に行われています。特に、イスラム教では同性愛が禁止されていることもあり、様々な価値観が浸透し、これまでの支配力が失われつつあるのです」

――宗教の支配力が失われていくイスラム社会では、なにが起きていますか?
リュック「純粋主義的な教義を追い求める人と西洋化した人で二分され、イスラムの戒律に従わない人は“悪”だと定義されるようになりました。これらは移民が多いベルギーをはじめ、ヨーロッパ全体において顕著で、このような状況が何十年も続いています。偏った信仰心は本当に恐ろしいもので、信者たちに厳しい生活態度を強いるだけでなく、不浄なもの、穢れのあるものを決めて、あらゆる面でコントロールしようとするのです」

弟のリュック
弟のリュック
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