女優・長澤まさみの“光と闇”…『MOTHER マザー』の狂気的な母親役が危険すぎる!
女優デビューから20周年を迎え、近年は激しいアクションを披露した『キングダム』(19)の楊端和役、はじけるコメディエンヌぶりがまばゆい「コンフィデンスマンJP」のダー子役などで人気を博す女優、長澤まさみ。そんな“光”のような印象を与える彼女が、実際に起こった17歳の少年による祖父母殺害事件をベースにした『MOTHER マザー』(公開中)で主演を務めた。殺人犯である少年の母親という難しい役柄で、狂気じみた“闇”をさらけ出し、役者としての深みを見せつけている。
『新聞記者』(19)、『宮本から君へ』(19)など意欲作を作り続ける映画会社スターサンズと、『日日是好日』(18)の大森立嗣監督がタッグを組んだ本作。ろくに働きもせず、両親や知人から金の無心をくり返すシングルマザーの秋子(長澤)。男たちとゆきずりの関係を持ち、その場しのぎで生きてきた彼女は、息子の周平(奥平大兼)に奇妙な執着を見せ、忠実であることを強いてきた。一方の周平も、彼女からの歪んだ愛の形しか知らず、翻弄されながらもそれに応えようとする。そんな社会の底辺でもがく母と息子は、身内からも絶縁され、しだいに孤立を深めていく。
奔放で他人を顧みない性格の秋子は、とにかく不可解極まりない。親切な男性が現れれば、本能のままに肉体関係を持ち、その優しさにつけ込んで金銭面での世話もしてもらう。ところが、腐れ縁で結ばれたホストの恋人、遼(阿部サダヲ)に対しては、彼女の心はさらに複雑で読み解くことは難しい。どんなに暴力を振るわれようが耐え続け、目の前から消えるたびに借金を作って帰ってくる彼を迎え入れてしまう。
そんな秋子が息子である周平に向ける愛情はかなり歪んでいる。彼が幼い頃から、恋人と家を空けては、育児放棄を繰り返す。親戚に自身が拒絶されているため、息子に借金を頼みに行かせ、お金をもらえずに戻ってくれば、「なにしてんだよ!」と恫喝する。しかし、恋人である遼が去った際には、「周平しかいないんだからね!」と息子にしがみつき、子どものように泣きじゃくることも。精神的に息子を支配しながらも、秋子自身も彼に依存しているのだ。
一人の人間として、親としても世間から許されることのない秋子。児童相談所の職員にとがめられた際に言い放つ、「私の子どもなんだから、どう育てようと勝手だろ」という言葉も強烈な印象を残す。そして、彼女の愛を受け続けた息子は追いつめられ、凶行に走ってしまう。
『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(7月23日公開)も控える長澤が、その光を封印し倫理的な許容範囲を超えた狂気の“母親”を体当たりで演じ切った本作。既成の価値観では測れない親子のあり方を問いかけるこの衝撃の結末を、劇場で確かめてほしい。
文/トライワークス