長澤まさみ「自分で出演を決めた作品だと伝えていきたい」『MOTHER マザー』大森監督との対談で明かす
「子役の子たちは、もはや百発百中できちゃう人たちでした」(長澤)
大森監督と奥平は、撮影前のワークショップを通してリハーサルを重ねたそうだ。「奥平くんは台詞が多かったので、撮影前にけっこう練習をしました。それでも、撮影に入ったら最初は長澤さんを見ただけで『本物がいる!』とたじろいでいました。まあ、高校生ですからね(笑)」。
長澤は「でも、2回目に会った時は、『もう慣れました』と言って、堂々としていましたよ」と笑うと、大森監督は「言ってたよね(笑)」とうなずく。
「彼らが偉かったのは、演技で嘘をつかなかったこと」と言う大森監督。
「いろんな台詞があるんですけど、それが嘘だと、相手にバレちゃうと思うんです。でも、彼らはちゃんと内容を理解し、自分がその時にどういう気持ちになったのかを素直に出してくれました。また、彼らには『用意スタート!がかかった瞬間、先輩も後輩も関係なくなるから、1人の人間同士として向き合っていけばいいんだよ』とも伝えてありました」。
順撮りで撮影できたことも功を奏したという長澤。「秋子と周平のシーンで言えば、郡司くんとの共演シーンのほうが多かったので、郡司くんが作ってくれた周平像を、奥平くんに重ねていったという感じでした。順撮りだったので、本当に周平と一緒に年を重ねることができたという感覚を持てました。奥平くんに会った時も、『ああ、周平ってこういう子だった』とすぐに納得できたんです。また、彼らは監督がおっしゃるとおり、思ったことや感じたことに対して、とても素直に反応できるので、堂々としていました。もはや百発百中できちゃう人たちで、逆にベテラン感があったんです」。
長澤は、大森監督について「監督自身も、監督が撮る映像もすごくカッコいいので、演じる側としてもテンションが上がるし、自分も頑張りたいと心から思えました。力があって、みんなを引っ張っていくリーダーみたいな感じ」と手放しで絶賛する。
「監督は穏やかな現場を作ってくれます。子役の子たちからも慕われていました。それが大森組の魅力で、だからこそ子役の良さを引きだせるのかなと。私は今回の役柄について、ちゃんと演じなきゃという責任感をすごく感じていたけど、大森監督に救われました。自分の演技に集中できたのは、監督が現場をちゃんと仕切りつつも、見守ってくれているという安心感があったから」。
大森監督も長澤の熱演に引き込まれたそうだ。
「例えば、弁護士と向き合うシーンなどもそうですね。また、中盤で秋子たちがどんどん住むところを追われていきますよね。僕がなにげに好きなのが、すごく狭い三畳の部屋に入ってくるシーンです。あのあたりから、秋子の存在感がグッと増したんです。衣装的にもそうでしたが、背中が大きくなった気がして。なんだか山猫が来たみたいな貫禄があり、そういう存在感が好きでした。積極的なお芝居もいいけど、そうじゃない部分も非常に良かった」。
秋子という毒母を演じきった長澤は「最後まで秋子の気持ちは理解できなかった」と言う。
「でも、本作で描かれているようなことから目を背けていたくない。同じ社会で生きるうえで、見逃しちゃいけないというか、見過ごしてはいけないことの一つなんじゃないかなと。コロナ禍になって、自分だけ良ければいいのかと、より一層強く思うようになりました」。
凛とした表情で、そう語った長澤。女優としても一人の人間としても、しっかりと物事を見据えて行動する。長澤の美しさは、そういう内面から醸しだされているのだと感じた。大森組を経て、また一皮むけた長澤の女優力を堪能してほしい。
取材・文/山崎伸子