フロイト教授の言葉に励まされる!迷える人々を導く『17歳のウィーン』
ナチス・ドイツの侵攻が迫る1930年代のオーストリアを舞台に、一人の青年の成長と決断を描く『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』(公開中)。全体主義が拡大し、人間の尊厳が奪われていくなか、劇中で人生の喜びや恋する大切さを説くのがあの高名な心理学者、ジークムント・フロイト教授だ。現代に生きる私たちから見ても学ぶことが多い本作を、主人公とフロイト教授の交流を中心に紹介する。
迷える若者を経験豊富な先人が導く映画は過去に何度も作られてきた。ロビン・ウィリアムズ演じる最愛の妻を亡くした心理学者が、マット・デイモン扮する非凡な数学の才能を持つ青年のカウンセリングを行い、互いに救われていく様子が感動を呼んだ『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)。アン・ハサウェイ&ロバート・デニーロ共演の『マイ・インターン』(15)では、多忙で心が擦り減ってしまった通販サイト社長(ハサウェイ)をシニア・インターン制度で採用された70歳の男(デニーロ)が優しく励ます姿が、働く女性たちに勇気を与えている。『17歳のウィーン ~』もまた、この流れをくむ“メンター映画”と言える。
時は1937年、ナチス・ドイツとの併合に揺れるオーストリア。自然豊かな田舎街で母親と暮らす17歳のフランツ(ジーモン・モルツェ)は、タバコ店の見習いとして働くためウィーンにやって来る。店の常連客で“頭の医者”として有名なフロイト教授(ブルーノ・ガンツ)と懇意になった彼は、教授から人生を楽しみ、恋をするように勧められる。
そして、ボヘミア出身のアネシュカ(エマ・ドログノヴァ)に一目惚れしたフランツは、教授に助言を仰ぐようになる。一方で、オーストリアはナチスの併合を受け入れ、街中で秘密警察が反体制的な人々を厳しく取り締まっていた。その脅威はフランツの店やユダヤ人であるフロイト教授にも迫っていく。
フロイト教授を演じるのは、2019年に死去し本作が遺作となったブルーノ・ガンツ。代表作『ヒトラー 最期の12日間』(04)で連合軍に追い詰められるアドルフ・ヒトラーを危険かつ繊細に表現した名優が、本作では無垢な青年に温かい言葉をかけ、やさしく導こうとする佇まいが印象的だ。
劇中では、「教授の本で勉強します」と尊敬の眼差しを向けるフランツに対し、「若いんだから、外で楽しいことをしなさい。女の子とね」と一言。さらに、「田舎者は森に詳しいけど、恋愛は…」と口ごもる彼に対して、「詳しくなくて当然だ。わかる者などいない」と後押しする。
さらに、アネシュカと出会い、彼女への情熱的な恋心に苦しんでいることを打ち明けられた際には、「3つの処方を伝えよう。1つ目はくよくよ考えない。2つ目は眠りから覚めたら、見た夢を紙に書き起こすこと。3つ目はその子を捜せ」と心理学者として人生の先輩としてのアドバイスを送りながら、「または忘れろ」とフランツを焚きつける。一方、フロイト教授も老いによって生きる喜びを見いだせないでいたのだが、フランツと接することで再び生気がみなぎっていくのだ。
落ち込んだ時、人生に迷った時に、ふとした“気づき”を与えてくれる『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』。誰もが主人公のフランツに自分を重ね、フロイト教授の言葉によって前へ進む活力がもらえるはず!
文/平尾嘉浩(トライワークス)