『となりのトトロ』の懐かしい原風景も…背景美術でジブリを支えた男鹿和雄とは?
田舎へ引っ越して来た姉妹と不思議な生き物“トトロ”との交流を描く宮崎駿監督作『となりのトトロ』(88)。劇中の舞台となる古き良き日本の田園風景が魅力だが、それらの画を描いたのは数多くのジブリ作品に携わってきた背景美術の男鹿和雄だ。実は本作こそ、男鹿の映画デビュー作であり、初めてのジブリ作品でもあった。
『風の谷のナウシカ』(84)、『天空の城ラピュタ』(86)を経て制作されることになった『となりのトトロ』。本作は高畑勲監督の『火垂るの墓』(88)との同時上映で企画が進められており、両監督の信頼に応えられるスタッフに限りがあったことから、人員のやりくりに相当な苦労があったと言われている。高畑がベテランを集めた一方で、宮崎は新規のスタッフを中心に制作することに。その際、宮崎から直接スカウトされたのが男鹿だった。
1970年代より背景美術を描き始めた男鹿は、「はだしのゲン」、「時空の旅人」、「妖獣都市」などの美術監督を務めたあと、1987年に『となりのトトロ』に参加。トトロが暮らす森の大木や洞窟、サツキとメイの家など、風に揺れる草木に木漏れ日、漂う空気感まで、真夏の日本の田舎の情景を丁寧に表現した。男鹿の出身地である秋田を思わせるそれらの懐かしい画は、いまも大勢の人々の心を捉え続けている。
宮崎はもちろん、高畑からも高い評価を獲得した男鹿は、その後も『おもひでぽろぽろ』(91)や『もののけ姫』(97)、『かぐや姫の物語』(13)などジブリを代表する作品で美術監督を担当。特に『もののけ姫』では、巨木が生い茂る原始の森を描くため、屋久島の原生林を取材し、想像力を駆使しながら誰も見たことがない太古の森を作り上げた。さらに、白神山地や青森県の鰺ヶ沢、藤里町の二ツ森なども訪れ、アシタカの故郷であるエミシの村の参考にするなど、作品の世界観を作り上げるうえで常に重要な役割を担ってきた。
ジブリ以外でも男鹿は、『サマーウォーズ』(09)や劇場版『若おかみは小学生!』(18)といった作品にも携わってきた。アニメーションだけでなく、挿絵や絵本、エッセイなども発表し、ジブリで描いてきた画を集めた画集「男鹿和雄画集 ジブリTHE ARTシリーズ」も話題に。2007年にスタートした個展「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」にも大勢の来場者が駆けつけている。
長きにわたりスタジオジブリの作品を背景美術で支え続けた男鹿和雄。まもなく放送開始となる「金曜ロードSHOW!」では『となりのトトロ』が放送される。美しく牧歌的な風景にも注目しながら本作を鑑賞してみると、また新たな発見があるかもしれない。
文/平尾喜浩(トライワークス)
発売中
価格:2,800円+税
発行元:徳間書店
編集:スタジオジブリ編集