“スピルバーグの秘蔵っ子”から依存症、逮捕へ…『ハニーボーイ』に至るシャイア・ラブーフの軌跡
一からやり直すためリハビリ施設へ入所
順風満帆に見えるラブーフのキャリアだが、私生活ではアルコールに溺れ、精神的にも疲弊していた。2007年にドラッグストアに不法侵入し、逮捕されたことを皮切りに(5時間後に釈放)、飲酒運転など数々のトラブルを引き起こしてきた。
そんな彼の運命を変えたのが、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞するなど、高評価を獲得した『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』(19)撮影時の事件だ。
公共の場で泥酔し、警察官への迷惑行為で逮捕されたラブーフ。作品の公開までが危ぶまれる事態となった折、本作の主演で俳優デビューを飾ったダウン症の俳優ザック・ゴッツァーゲンに「君は僕の、一生に一度のチャンスを台無しにした」という言葉をかけられてしまう。
この言葉で心を入れ替えたラブーフはリハビリ施設への入所を決意。その甲斐あって作品は無事完成し、信頼関係を取り戻した2人は揃ってアカデミー賞授賞式にも出席した。
リハビリで書き上げた自身の物語が映画に!
さて、この入院で心的外傷後ストレス障害=PTSDと診断された彼が治療の一環として書き上げたのが、『ハニーボーイ』の基となる脚本というわけだ。
ラブーフ自身を投影したオーティスという人気俳優が主人公の本作。飲酒運転中に事故を起こし、施設に入った彼が、リハビリとして自身の過去をノートに書き留めるという、ラブーフが体験したことと同じ物語が展開される。
オーティスが10年前を思い返しながら明かされるのは、冒頭でも触れた父との複雑な関係だ。彼の父ジェームズは人気子役として活躍する息子のマネージャー役を務め、その稼ぎを糧にモーテルでその日暮らしをしていた。子どもながらにオーティスは、アルコールやドラッグを使用し、精神的に不安定な父との関係に悩みながらも見放すことができずにいる。やがて、父子の関係を揺るがす出来事が起こり、それがオーティス、ひいてはラブーフの人生にもトラウマとして影響を与えてしまう。
子役時代のオーティスを今後の活躍が楽しみなノア・ジュープ、大人時代を若手実力派のルーカス・ヘッジズが演じるほか、父ジェームズ役としてラブーフも出演している。
自身の過去やトラウマに向き合い、映画として結実させたラブーフ。俳優としての真価が問われるこれからを占ううえでも、本作は見逃せない作品だ。
文/平尾嘉浩(トライワークス)