北米で『TENET テネット』を観るには片道3時間…映画館再開のめどが立たないLA、ドライブイン・シアターは新定番に
いよいよ北米でもクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』が公開となった。しかし、現在も感染拡大が続くカリフォルニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、ノースカロライナ州、プエルトリコの一部の地域では映画館の再開が許可されていない。ワシントン州全体では営業中の映画館もあるが、シアトル市内の映画館は閉鎖されたままだ。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が8月28日に発表した経済再開策のガイドラインによると、ロサンゼルス郡を含む38の郡内の映画館は、ドライブイン・シアターのみ営業可能となっている。
ところが、『TENET テネット』を配給するワーナー映画は、ドライブイン・シアターを公開映画館に含まなかった。そのため、ロサンゼルス郡内では『TENET テネット』を鑑賞する方法がなく、カリフォルニア州の中でも比較的感染率が低いサンディエゴまで片道3時間かけて出向かないと映画館での鑑賞はできない。ワーナーはドライブイン・シアターを含まない理由を明らかにしていないが、あくまでも映画館での上映にこだわったクリストファー・ノーランの意向の中に、映像・音響が整備された施設での鑑賞体験があるのは言うまでもない。
残念ながら『TENE テネット』を観ることはできないが、新型コロナウイルスのパンデミック以降、過去の遺物だと思われていたドライブイン・シアターを使用した上映イベントが増えている。2012年からロサンゼルスで屋外映画上映とフード・トラックを組み合わせたイベントを展開しているStreet Food Cinemaは今夏からドライブイン・シアターと組み、ロサンゼルス近郊15都市で60回以上の上映イベントを行っている。上映作品は過去のヒット作が多く、家族で楽しめるようなラインナップが並ぶ。料金は車1台に対し20ドル、乗車人数一人当たり8ドルが加算される。
カルバーシティにあるソニー・ピクチャーズ本社内では「Sony Pictures Drive-in Experience」が行われており、過去作が上映されている。9月10日からはセレーナ・ゴメスが製作総指揮を務める新作映画『The Broken Hearts Gallery』も公開される。チケットは車両1台あたり35ドル(過去作は25ドル〜)で、同居家族4人まで乗車できる。
ディズニーは新作映画『The New Mutants』を8月28日よりドライブイン・シアターでも公開した。「X-MEN」シリーズのスピンオフで、本来は2018年4月公開だった予定が、ディズニーによる21世紀フォックス買収やパンデミックにより、幾度も公開日が変更になり、ようやく日の目を見ることができた。チケットは車両1台あたり35ドル。
また、9月10日から開催されるトロント国際映画祭でも、オープニング作品のスパイク・リー監督による『David Byrne's American Utopia』や、サーチライト・ピクチャーズ作品のクロエ・ジャオ監督『Nomadland』などがドライブイン・シアターで上映される。チケット料金は1台あたり49〜69カナダドルで、乗車人数によって変わる。
パンデミックによって映画館が閉鎖されてからおよそ半年。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でブラッド・ピットが演じたクリフ・ブースがふらりと訪れるように、カリフォルニアの住民にとってドライブイン・シアターは映画を観る手段としてニュー・ノーマルの一部になりつつある。
文/平井伊都子