全米の映画興行に“希望の光”。『ムーラン』『TENET』など大作映画に向けた課題とは?
新型コロナウイルスの感染拡大がつづくアメリカでは、国内のほぼすべての映画館が休業となって1か月が経過した。そうしたなかで先週、アメリカ政府が発表した市民生活と経済活動の再開に向けたガイドラインに、映画館の再開に向けた“希望の光”となる見通しが組み込まれたという。
それは、ソーシャルディスタンスを保つことを条件に、レストランやスポーツジムなどの営業再開を認めるという行動指針で、そのなかに映画館も含まれている。しかし「Variety」の報道によれば、専門家からは全米興行の中心地であるニューヨークやロサンゼルスではほかの地域よりも再開に時間がかかることや、映画館の座席数が限られること、そして世界中の映画館が休業していることなどの様々な要因によって、大作映画がすぐに公開されるのは厳しいとの見解が出されている。
「主要なマーケットが再開されなければ『ムーラン』や『TENET テネット』のような大作は公開されないだろう」と興行アナリストは予測。春シーズンからサマーシーズンの7月24日に公開が延期された『ムーラン』と、当初からサマーシーズンの目玉作品として予定されているクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』やDCコミックスの『ワンダーウーマン1984』は、“ポスト・コロナ”の映画興行の救世主となるとの見立てもある。しかし、いずれも国内での興行の成功はもちろん、10億ドル規模の海外興収をあげることが期待されているだけに、まだまだ財政的リスクの大きさが拭いきれていない。
確かに映画館が再開されたタイミングで、人々を引き寄せる魅力を備えた大作映画が公開されていれば、映画興行が活力を取り戻すきっかけになる可能性はある。しかし、まだ先の見通せない状況では多くの人が混雑した場所に出向くことをためらう可能性も考えられる。3月下旬に中国では、爆発的な拡大が落ち着いたことを受けて600を超える映画館が再開したものの、パンデミックの再発が懸念されて再び休業を命じられたということも。
そうしたなかでアメリカでは、製作費が安く収益のほとんどが北米で賄うことができるコメディ作品や人気のある旧作など、興行的リスクの小さい作品で徐々に立て直していく策が取られていくことになると言われている。全米シネコンチェーン大手のシネマークのCEOも、6月から営業を再開し、旧作上映で少しずつ観客を劇場に引き戻していき、7月以降に本格的に再開することを目指すと明らかにしている。
日本でも先週すべての都道府県に緊急事態宣言が発令され、国内のほぼすべての映画館が休業するという前代未聞の週末を迎えることになった。はたして、いままでのように安心して映画を楽しむことができる環境が戻ってくるのはいつになるのだろうか。
文/久保田 和馬