世界の著名監督がリスペクト!ロイ・アンダーソン監督の摩訶不思議な映像世界をPFFで堪能
毎年恒例のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)が現在開催中だ。9月26日(土)まで、東京・国立映画アーカイブで開催されている。42回目を数える今年も、新型コロナウイルスの感染防止対策を行ったうえでスクリーンでのリアルな上映を実施。17作品の自主映画がグランプリを競う「PFFアワード2020」などの多彩な部門が揃った。
PFFには国内外の注目すべき新作、貴重な旧作を上映する「招待作品部門」があるが、今年はロイ・アンダーソン監督の特集が実現。北欧スウェーデンの鬼才であり、アレハンドロ・G・イニャリトゥ、ダーレン・アロノフスキー、さらには『ミッドサマー』のアリ・アスターといった世界中の著名監督がリスペクトしてやまないアンダーソンの全作品コンプリート特集は、これがアジア初となる。
1943年生まれのアンダーソンは現在77歳。20代半ばにして手がけた長編デビュー作『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(70)で大ヒットを飛ばしたが、第2作『ギリアップ』(75)の興行的失敗によってCMディレクターに転身した。カンヌ国際広告祭で8度の受賞を成し遂げるなどCM業界で確固たる地位を築くとともに、独自の映像スタイルを追求。そして25年ぶりの長編映画『散歩する惑星』(00/カンヌ国際映画祭審査員賞受賞)で映画界に復帰し、その後も7年ごとのスパンで『愛おしき隣人』(07)、『さよなら、人類』(14/ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞)を発表してきた。
世界中にはユニークな個性を誇る映画監督が何人もいるが、アンダーソンはまさしくオンリーワンの並外れた作家性の持ち主だ。とりわけリビング・トリロジー(人間についての三部作)と呼ばれる『散歩する惑星』『愛おしき隣人』『さよなら、人類』は、エドワード・ホッパー、ピーテル・ブリューゲルらの絵画から多大なインスピレーションを得ているというアンダーソンの特異な映画的感性が全面的に開花。自らがストックホルムで運営するスタジオに場面ごとのセットを建造し、CGに頼らずマットペインティングやミニチュアを背景に据えた精巧でアナログな映像世界は、固定カメラのワンシーン・ワンカットを徹底した演出手法と相まって、“動く絵画”というべき独特の興趣に満ちている。
また、完成台本のないイメージ優先の映画作りを実践するアンダーソンの映画には、ドラマ的な起承転結がない。例えば『さよなら、人類』に登場する面白グッズのセールスマン・コンビなど、名もなき市井の人々が織りなす人生のヒトコマをカメラに収め、彼らの悲哀、苦悩、混乱、孤独を描出。詩的にして哲学的、シュールで不条理ですらある小さなエピソードをひょうひょうと連ねて、人間の愚かさ、切なさ、愛おしさをすくい取り、その多様で豊かな情感を観る者の胸にじんわりと染み入らせるという魔法使いのごときフィルムメーカーなのだ。
今回のコンプリート特集では上記のリビング・トリロジー、みずみずしい思春期映画の傑作『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』はもちろん、港町のホテルを舞台にした異色のクライムムービー『ギリアップ』と、貴重な学生時代の作品を含む全5本の短編プログラムを日本初上映。さらに『さよなら、人類』から5年ぶりとなる待望の最新作『ホモ・サピエンスの涙』(11月20日公開)の特別上映も行われる。リビング・トリロジーで確立したスタイルをさらに深化させ、ワンシーン・ワンカットの全33シーンで構成された同作品は、戦争で廃墟と化した街の上空を浮遊する“空飛ぶカップル”などの驚くべき光景をヴィジュアル化し、ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞。「千夜一夜物語」に想を得た女性の声のナレーションを導入し、時代や空間、現実と幻想の垣根さえも軽々と飛び超えていく奇想天外な悲喜劇だ。
『ギリアップ』と短編プログラムは24時間限定の配信も行われるので、詳しくは公式サイトをチェック。ぜひこの機会に、一度観たらやみつきになること必至のイマジネーションが炸裂するアンダーソンの比類なき世界に触れてほしい。
文/高橋諭治
<ロイ・アンダーソン監督特集 ~素敵なにんげんたち~>
https://pff.jp/42nd/
上映作品
『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』
『ギリアップ』
『散歩する惑星』
『愛おしき隣人』
『さよなら、人類』
『ホモ・サピエンスの涙』
短編プログラム(初期短編5本)
※『ギリアップ』と短編プログラムをオンラインで限定配信
https://pff.jp/42nd/online.html/