「クレヨンしんちゃん」の原点を再構築!傑作『ラクガキングダム』創作秘話を、京極尚彦監督&近藤慶一プロデューサーが明かす
今年で連載開始から30周年を迎えた「クレヨンしんちゃん」の劇場版最新作『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』が、ついに公開された。「ラブライブ!」や「宝石の国」などを手がけた京極尚彦が「映画クレヨンしんちゃん」としては初監督を務め、“嵐を呼ぶ5歳児”しんのすけの冒険を躍動感たっぷりに描きだした。
京極監督の抜てきについて、シンエイ動画の近藤慶一プロデューサーは「しんのすけは、“動いてなんぼ”というおもしろさのあるキャラクター。『宝石の国』を観て、なんとしても京極監督にお願いしたいと思った」とコメント。「自分にオファーが来るなんてとても驚いた」という京極監督は、しんのすけと向き合っているうちに、「宝石の国」の主人公にも共通する魅力に気づいたと告白する。本作を通して実感した、しんのすけの色あせない魅力とは? 2人にたっぷりと語り合ってもらった。
本作で物語の鍵を握るのは、自由なラクガキをエネルギー源として、空に浮かぶ王国「ラクガキングダム」。エネルギー不足に悩んでいた王国軍は、無理やりラクガキをさせるため、春日部への侵略を開始。選ばれし勇者のみが使える「ラクガキングダム」の秘宝、ミラクルクレヨンを手にしたしんのすけが、危機に立ち向かう姿を描く。
「しんのすけをおもしろく動かせる人はなかなかいない」(近藤)
「『宝石の国』を観て、なんとしても京極監督にお願いしたいと思った」という近藤。
「『宝石の国』は映像表現がすさまじく、なによりもアクションシーンがすばらしかった。アクションとは戦闘シーンという意味だけでなく、お芝居に対してのアクションとリアクション。アニメーションという表現のなかでしっかりと人物が動いていて、『この監督は“キャラクターを動かす”ということを大事に考えている方だな』と思ったんです」と惚れ込んだそうで、「しんのすけは、“動いてなんぼ”というおもしろさのあるキャラクター。しんのすけをおもしろく動かせる人って、僕はなかなかいないと感じていて。また『ラブライブ!』の第1話の後半のぶっ飛び方を見ても、すごく映画らしい表現のできる方だなと思った。ぜひこの方にお願いしたいなと思いました」と振り返る。
京極監督は「最初、そう言われてもよくわからなくて。家に帰ってから『なんだか大きなことを頼まれたぞ』と冷静に考えた。それくらい意外でした」とオファーに驚いたと語る。
「海外転勤の話が来たみたいな感じですかね(笑)。『行ってみたかったし、これは行くしかないだろう』と。『クレヨンしんちゃん』については、原(恵一)監督や本郷(みつる)監督など、ものすごい方がやっていらっしゃるという印象でしたので、そういった方々に挑んでいくような気持ちで、楽しんでやろうと思っていました」と前のめりで飛び込み、「足を引っ張ってしまうことにもなりかねないので、テレビシリーズから入らせていただきたい」との思いから、2018年放送分から数本、テレビシリーズの絵コンテ、演出を担当。
「自分にオファーが来たということは、それまでの流れとは違う要素があるべきなんだろうなとも思いましたが、いままでの流れを踏襲しつつ、なにを変えて、なにを残していけばいいのだろうと考えていました」とひたむきにシリーズに向き合った。
「高田さんとご一緒できたことで、生々しさが生まれた」(京極)
京極監督の作ったアイデアノートをもとに、『婚前特急』(11)や『そこのみにて光輝く』(14)などを手がけてきた高田亮が、初の劇場アニメ脚本にチャレンジした。近藤は「僕はもともと実写映画の助監督をやっていたのですが、そのころに高田さんとお仕事をさせていただいて『こんなに美しい脚本を書ける方がいるんだ』と感じていました。骨太なものもコミカルなものも書ける方だと思っていたので、『クレヨンしんちゃん』の世界観にも合うだろうなと。高田さんが子どもたちに向けて物語を書くというのも、新鮮でおもしろいと思いました」と化学反応に期待したという。
ラクガキをテーマにした本作。原作にも、描いた絵が実体化する魔法のペン、“ミラクル・マーカー”が登場する回があったが、物語の発想はどのように生まれたのだろうか?
京極監督は、「『クレヨンしんちゃん』というタイトルなのに、これまでの作品にはあまりクレヨンが出てこないなと思って(笑)。クレヨンを出したいなと思ったのと、冒険活劇をやりたいという想いが強くありました」と告白。「僕も以前、描いた絵が現実になる、本作の物語と似たテーマの短編を作ったことがあり、それを膨らませられたらと思っていました。すると原作にもそういった話があると聞き、これは縁があるな」とアイデアを膨らませたという。
「後半でしんのすけが大人たちに叱責されるシーンがあるんですが、高田さんとご一緒できたことで、そういったシーンに実写的な“生々しさ”が生まれたと感じています。僕が脚本を書いていたら、もっとアニメチックになってしまっていたかもしれません。高田さんは人の感情に入り込む描写がとてもうまく、本当に助けていただきました」と高田とのタッグも刺激的なものだったと語る。