“コワモテ”俳優、ヴァンサン・カッセルの新境地?『スペシャルズ!』で社会福祉に取り組む男を演じる
日本でも大ヒットした『最強のふたり』(11)の監督コンビ、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュによる最新作『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』(公開中)。問題を抱えた子どもたちを救う二人の男を描く実話に基づいた作品で、その一人をフランスの名優ヴァンサン・カッセルが演じている。過去の出演作とはイメージが異なるカッセルの役柄を中心に本作を紹介したい。
自閉症の子どもを救おうとする男たちの実話
自閉症の青少年を支援する団体“正義の声”を運営するブリュノは、朝から晩まで対応に追われて大忙し。ほかの施設が匙を投げるほどの問題を抱えた子どもたちをすべて受け入れてしまうため、施設はいつもいっぱいだった。ブリュノの友人、マリクもまたドロップアウトした若者たちを支援する活動を行っており、彼らを指導して施設に派遣するなど、二人は連携しながら社会から疎外された人々を救おうとしていた。しかし、ブリュノの施設は無認可、赤字経営で、職員のほとんども資格がなく、厚生省の監査が入り、閉鎖の危機に陥ってしまう。
フランス本国で公開されるや、動員数200万人を突破し、ヨーロッパ各地の映画祭でも高評価を獲得した本作。ブリュノとマリクは実在の人物がモデルとなっており、いまから26年前、駆けだしだった頃のトレダノとナカシュがその活動に感銘を受け、その時に交わした「いつか必ず映画にする」という約束を果たした形となった。
個性派ヴァンサン・カッセルが社会福祉に取り組む男を好演
主人公のブリュノを演じるカッセルと言えば、「ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男」二部作でフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞の主演男優賞を獲得した実力派。デヴィッド・クローネンバーグ監督作『イースタン・プロミス』(07)や『危険なメソッド』(11)、ナタリー・ポートマン扮するバレリーナを翻弄する振付師役が印象的な『ブラック・スワン』(10)など、クセが強くエッジの効いた演技を披露することが多かった。
しかし、本作でのカッセルは、自閉症の子どもに親身になって接し、なんとか社会で生きていけるように、骨身を削ってサポートするブリュノを好演している。ブリュノが社会福祉に取り組むきっかけとなった、暴力を振るうクセがあった青年ジョゼフとは固い絆で結ばれており、彼がトラブルを起こさないようにそっと見守り、就職できるようにいろいろな会社へメールを送り、直接会って働かせてもらえるように懇願することも。
一方で、政府の監査員から衛生面や安全面で苦言を呈された際は、「なぜ15年間も保険局や児童相談所、裁判官、医者が私に連絡してくるのか。いまも40人の子どもを預かっているが、まだ50人以上も待機している」と毅然とした態度で応対。自身の活動に誇りを持ち、意思の強い人物であると感じさせる。