『TENET テネット』クリストファー・ノーラン&ジョン・デヴィッド・ワシントンの共犯関係「自分が観たいものじゃないと作りたくない」
「時間逆行のシーンはCGを使わず、なるべくインカメラで撮るようにした」(ノーラン監督)
複雑な構成の物語だが、ワシントンは、名もなき男役にどう挑んだのか。現場については「ノーラン監督作だから、ものすごいスケール感がある映画で、ジャンルもひとひねり加えたものになるだろうし、撮影もすばらしいものになるんだろうなということが大前提としてあった」とある種の覚悟を持って入ったそうだ。
「様々な解釈ができるキャラクターだと思ったので、彼がどういう歴史を背負っている人なのかとあれこれ考えたし、海軍や武器に関してもいろいろとリサーチをしなければいけなかった。また、彼はすごく人間らしい、脆弱な一面もある人物だと思った。人によっては、そこをウィークポイントだと捉えるかもしれないけど、僕はそれこそが彼の力になると解釈したよ」。
撮影前に、2か月ほどトレーニングを積み、軍人としての身体を作り上げたというワシントン。「形から入ったが、逆に身体を作ったことで、『彼はこういう男だ』という内面が自分の身体を通して、わかってくるようになった。また、ノーラン監督はちゃんと僕をパートナーとして見てくれていて、『直感を信じて、やりたいようにやればいいから』と言ってくれたので、安心して感じるままに演じることができた」。
最大の見せ場となるのは、時間の逆行シーンだ。CGの濫用を嫌うノーラン監督だけに、すさまじいアクションシーン内での時間逆行をどう撮影したのかが大いに気になるところだ。ノーラン監督は「ネタバレになるから部分的にしか言えないけれど、1つ言えることは、CGを使わずに、なるべくインカメラで撮るようにしたよ」と言う。
「逆行のシーンは不自然な動きをしないといけないので、演出も工夫しなければいけなかったし、技術的にも大変だった。例えばカーチェイスのシーンは、1ショットを撮るのに、6通りもの撮影が必要で、それらの映像を編集室でつなぎ合わせた。だから、毎日緻密に練り上げてから撮影する必要があった。毎回数学的に組み立てながら撮影していったよ」。
ワシントンも「演じるなかで難しかったのは、これまで身体に染み付いている動きを排除して、新たに違う動きを習得しなければならなかった点だ」と述懐。「それは、瞬きや呼吸1つ取ってもそうだし、喋り方についても全部学び直さないといけなかった。それはまるでダンスの振り付けを覚えるような感覚で、これまでとはまったく違うシーンを演じている体験だった。やはりスタント・コーディネーターのジョージ・コットルの力なしでは無理だと思った」。