『TENET テネット』クリストファー・ノーラン＆ジョン・デヴィッド・ワシントンの共犯関係「自分が観たいものじゃないと作りたくない」

「一番びっくりしたのは、ノーラン監督が悪天候に興奮するという点だ」(ワシントン)

また、ワシントンは、ロシアの新興財閥で裏の顔は武器商人であるセイター役のケネス・ブラナーについて「名優中の名優」と称えたあとで「彼とガラス越しに対決するシーンが忘れられない」と言う。「そのシーンでは、この映画特有の喋り方をしなければいけなかった。僕は、なまりなしのアメリカ英語で話すだけでも精一杯だったのに、彼はロシア語なまりで、それをやってのけたよ。しかも、まるでシェイクスピアを読み上げるように、朗々と披露している姿を見て感動したし、自分は俳優としてまだまだだなと思ったよ」。

今回、ノーラン監督と初タッグとなったワシントンは、ノーラン監督の意外な一面も発見したと言う。「一番びっくりしたのは、ノーラン監督が悪天候に興奮するという点だ。雨がザーザー降っていると『よし、やるぞ！』とやる気を見せるが、デンマークの撮影で、太陽がさんさんと降り注いだ時は、全然喜んでいなかった。でも、次の日、荒天になったら、また『すばらしい！』と興奮していたので、驚いたよ」とおちゃめなエピソードを明かしてくれた。

今回、『インターステラー』に続いて、理学博士のキップ・ソーンが科学監修として参加している。「ソーンと初めて組んだのは『インターステラー』だったが、これも科学の可能性を探った映画だった。彼の話を聞くと、フィクションよりも奇なる真実みたいなところに気づかせてくれるんだ。例えば、時間が逆行すると、人は普通に呼吸することができなくなるとか、いろいろ事細かに説明してくれたので、それを脚本に盛り込んだ」。

また、ソーンの人柄についても「彼は私たちよりも、遥かに頭脳明晰なのは間違いないが、なによりもすごいのは、僕がどういったことを映画でやりたいのかをちゃんと聞いてくれて、僕がわかるレベルまで噛み砕いてわかりやすく話してくれる点だ。だからこそ、すばらしい学者なんだろうなとも思うよ」と心からリスペクトする。

『TENET テネット』は、過去作と比べても、非常に難解なテーマを持った作品ではあるが、要所要所で様々なヒントが散りばめられているので、観客は夢中になって観てしまう。集中して、それらのピースを集めていけば、最後に驚きの事実が浮かび上がるという仕掛けになっているのだが、パズルを完璧に完成させるのは、至難の業と言えそうだ。

「映画作りに誠実に取り組んでいきたい」というノーラン監督。その誠実さとは「自分が観たいものじゃないと作りたくないという点だ」と言う。

「自分なら、映画になにを期待するかを、僕は常に考えている。ワクワクしたいし、現実逃避もしたい。エンタテインメントの快感も欲しいが、いままで観たことのない世界も観てみたい。だけど、1にも2にもまずは娯楽として楽しんでほしいという想いはあるよ」。

確かに、ノーラン監督は非常に作家性が強いにもかかわらず、決して観客を選ぶ作品ではなく、“観客に選ばれる作品”に着地させている点が秀逸だ。そういう意味で、洋画大作の公開が途絶えたコロナ禍での公開は大きな意味を持つ。実際に、北米はもちろん、41の国と地域で公開されるや、その多くで初登場1位の好スタートを飾っているが、ここ日本でも、本作が洋画興行における救世主となるに違いない。

取材・文/山崎伸子