斬新なストーリーやシチュエーションに驚愕…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」よりひと味違う意欲作を紹介!

コラム

斬新なストーリーやシチュエーションに驚愕…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」よりひと味違う意欲作を紹介!

今年で17回目を迎える“若手映像クリエイターの登竜門”、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020が9月26日(土)からオンラインで開催される。これまで、白石和彌監督や中野量太監督、上田慎一郎監督ら、現在第一線で活躍する映画監督たちを輩出してきた本映画祭だが、出品作の斬新なストーリーやシチュエーションに驚愕することも多い。

今回「やっぱりスゴいぞ!才能を見いだすSKIPだ」と唸らされたのは、デビュー作『東京不穏詩』(18)が各国の映画祭で上映され、ブリュッセル・インディペンデント映画祭でグランプリを受賞した、インド出身で日本在住の監督、アンシュル・チョウハンの長編第2作『コントラ』。これにはもう、心底魅せられた。

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」はオンラインで開催
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」はオンラインで開催

インド人監督が描く日本人的な田舎の人間関係や親子のすれ違い

モノクロームで映しだされる本作の舞台は、日本のとある田舎町。山を臨み野辺が広がる風景のなか、学校から帰って来た女子高生のソラは、大好きな祖父がいつもの座卓で息を引き取っているのを発見する。傍には、古めかしい鞄とノート…。第二次世界大戦時に祖父が記したその日記を辿り、ソラは祖父が山に埋めた“宝らしきなにか”を探し始める。同じころ、後ろ向きにひたすら無言で歩き続ける謎の青年が町に現れる。ある晩、酒に酔った父親が彼を車ではねたことから、ソラはその“ホームレス青年”の世話を焼き始める。

街に突然現れた後ろ向きに歩く男の正体とは?『コントラ』など意欲作をレビュー
街に突然現れた後ろ向きに歩く男の正体とは?『コントラ』など意欲作をレビュー[c]2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED.

斬新と言おうか、妙ちきりんと言おうか、非常に示唆に富んでもいる、ユーモラスでさえある謎の男に、みな目が釘付けになるだろう。いったい彼はなんのために町に現れ、なぜ後ろ向きに歩き続け、グルグル同じ場所を周りながら、どこへ向かおうとしているのか。数々の意味深な符号から導く、謎解き自体はそう難しくはない。だが、それがどう紐解かれていくのか、非常にスリリングでワクワクさせられる。

淡々とソラと父親の生活を映しだしながら、ふと紛れ込むその“ファンタジー”が、日常に溶けるようなナチュラルさで独特の味わいを醸し、心をくすぐる。非常に日本的な懐かしさを覚える“田舎の人間関係あるある”や親戚付き合い、親子のすれ違いと和解、第二次世界大戦が祖父の心に残した傷や影などを、インド出身の監督がこうも見事に切り取るとは!
ソラが崖の上で高らかに“咆哮する”かのようなラストシーンからの幕切れが、胸の深いところに入り込んで余韻を長引かせる。早くも次回作を観たいと思わせるチョウハン監督に、今後も注目したい。

インド人監督が描くどこか懐かしい日本の風景(『コントラ』)
インド人監督が描くどこか懐かしい日本の風景(『コントラ』)[c]2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED.

声を発せられない痛みや重さがジンと響く意欲作

同じく国内コンペティション長編部門出品作『B/B』は、マシンガンのように哲学含みのセリフが横溢し、観る者の頭をブンブン振り回すかのごとくめまぐるしくカットを割る、割る。

なるほど、ヒロインは12人の人格を持つ“解離性同一性障害”の紗凪。しかも12の人格を、コスプレ少女からオッサン侍まで、年齢も性別も容姿もまちまちな俳優が演じるという斬新さだ。時は2020 年、担当大臣の汚職による東京オリンピック中止と、新興宗教による毒ガス散布未遂事件の狭間で起きた“見落とされそうな”コンビニ経営者惨殺事件。幕開け、いきなり被害者の息子である士郎との接点を問われ、紗凪が刑事に取り調べを受けている。12の人格それぞれの視点で、2人の交流が語られていくのだが…。

といっても回想ごとに平均6~7人が登場し、時にハチャメチャなコントのように、時に侃々諤々と議論を繰り広げる。発想自体は『脳内ポイズンベリー』(15)や『インサイド・ヘッド』(15)に近いが、この勢いある会話劇の奇妙奇天烈な世界観は、ポップでいびつで独特。ところが中盤から不穏な空気がフーッと吹き込まれ、徐々に温度が低下し始める。紗凪や士郎が抱える深刻な、しかし“見落とされがちな”社会問題が浮上。かまびすしいおしゃべりとの対比で、声を発せられない痛みや重さがジンと響く。

コンビニ経営者惨殺事件が発生。被害者の息子と交流のあったヒロインが、刑事から取り調べを受けること(『B/B』)
コンビニ経営者惨殺事件が発生。被害者の息子と交流のあったヒロインが、刑事から取り調べを受けること(『B/B』)[c]中濱宏介

ギャスパー・ノエを彷彿させるようなホラーテイストがひたひた広がる、心理スリラーへの転調も鮮やか。音楽も印象深ければ、色彩設計もおもしろい。なんと監督の中濱宏介が製作、脚本、編集を務め、美術にも携わった大阪芸術大学卒業制作の作品でもあるという。演技のつなぎや演出にぎこちなさもにじむが、完成されきっていないからこそ逆に、伸びしろの大きさ、まさに“新たな才能”を感じさせる意欲作だ。

解離性同一性障害を患うヒロインと、彼女の中に存在する12の人格たちがある惨殺事件を回想する『B/B』
解離性同一性障害を患うヒロインと、彼女の中に存在する12の人格たちがある惨殺事件を回想する『B/B』[c]中濱宏介

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