斬新なストーリーやシチュエーションに驚愕…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」よりひと味違う意欲作を紹介!

コラム

斬新なストーリーやシチュエーションに驚愕…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」よりひと味違う意欲作を紹介!

コメディと称していいかわからない…ユニークでキュートな愛すべきフランス映画

国際コンペティションに出品されている『フェリチタ!』は、日本人の感覚からはコメディと称するのは若干違和感を覚えるが、ユニークでキュートな魅力を湛えた愛すべきフランス映画だ。登場人物は、11歳の少女トミーと両親のほぼ3人。どことなくエキセントリックな父と母は、笑うに笑えないような作り話=冗談で、”だまされたら負け”的な遊びが大好き。そんな両親に驚かされたり呆れたりしながらも、家族3人楽しく暮らしているようだ。トミーが切に願うのはただ一つ、今年は新学期に遅刻せずに登校したい、ということ。父は、今年こそ必ず時間通りに学校まで送ると誓うが、またも突発的な困った事態が起こり…。

自分の世界にこもる11歳の少女と、冗談とは思えない作り話ばかりする自由奔放な両親の奇妙な交流を描く『フェリチタ!』
自分の世界にこもる11歳の少女と、冗談とは思えない作り話ばかりする自由奔放な両親の奇妙な交流を描く『フェリチタ!』[c]Unité - Jack N’a Qu’un Œil

庭で小鳥の声を聴きながら朝食をとる優雅な生活かと思いきや、実は他人の家に入り込んでいたり、父親が出所したばかりなど、最初から度肝を抜かれる。トミーがイヤーマフを手放せないのは、両親のおしゃべりをシャットアウトするためか、世界と距離を置くためか。2人の冗談にならない冗談には、観客も何度も驚かされることになる。本人たちはゲラゲラ、キャッキャと笑い飛ばすが、そこに幾ばくかの真実が紛れ込み、相手を試そうとしているのではないかと疑念を持たざるを得ないからこそ、我々観客は不安や緊張を緩めることなく、ドキドキしながら3人を見つめることに。のみならず観客の不安や緊張は、かわいいトミーの心情そのものだろう。両親を見つめる大きな目に溜まる涙、音のない世界に逃げ込む姿が胸に迫る。

両親の作り話に翻弄される少女トミー(『フェリチタ!』)
両親の作り話に翻弄される少女トミー(『フェリチタ!』)[c]Unité - Jack N’a Qu’un Œil

なんの技巧も感じさせず、観客を翻弄する新鋭ブルーノ・メルルにしてやられたり!初長編作品『変態ピエロ』(07)は第60回カンヌ国際映画祭批評家週間のオープニングを飾り、日本でも劇場公開されたが、久々の日本登場作品となる本作も期待に背かない。子どものように直情型の父親に辟易しつつ、どうにも憎めないかわいらしさをにじませたのは『おかえり、ブルゴーニュへ』(17)の主演ピオ・マルマイ。大人になりきれないダメ親だけど、それでもかけがえのない家族。3人から漏れてくる“この家族らしい”愛に、クスリと笑ってほっこり。キュートなトミーが、監督の実娘というのも驚嘆!

『おかえり、ブルゴーニュへ』主演のピオ・マルマイが憎めないダメ親を演じる(『フェリチタ!』)
『おかえり、ブルゴーニュへ』主演のピオ・マルマイが憎めないダメ親を演じる(『フェリチタ!』)[c]Unité - Jack N’a Qu’un Œil

理系脳の監督が描く人間の価値が“数値化”された世界

短編『axandax』は、人間の価値がすべて数値化され、刻々と推移していくそのグラフで評価が下される近未来という設定が新しい。そんな世間から退散し、人里離れた山奥で生活する男ジンのもとに、出張カウンセラーのナオミが派遣される。鋭い言葉でナオミを攻撃し、心を閉ざすジンだったが、ナオミが自身の“数値が低下した際のプライベートな出来事”を明かしたことで、少しずつ心を開いていく。

人里離れた山奥で生活する主人公(『axandax』)
人里離れた山奥で生活する主人公(『axandax』)[c]niwak

元データや数値を説明するスラスラ流れるようなセリフがなぜか心地よく、その数値を当然のように受け入れて人生が決められる未来の姿は末恐ろしい。なるほど、さすが理系脳の監督。九州を拠点に活動、理系大学に勤める二羽恵太は大学の卒業制作『Goodbook』(14)が福岡インディペンデント映画祭や LA EigaFestなどで高く評価され、『MoBrain』(18)もショートショートフィルムフェスティバルにノミネートされるなどの期待の監督。他人と比較する人生、人間らしさなどテーマは非常に普遍的でありつつ、ドラマ性をはらむラストシーンは、その後の物語を観たいと思わせる。長編作品を撮る日も、そう遠くはないと期待したい。

学歴や資格、成果から個人の価値が数値化され、他人との優劣が可視化された時代を描く『axandax』
学歴や資格、成果から個人の価値が数値化され、他人との優劣が可視化された時代を描く『axandax』[c]niwak

文/折田千鶴子

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