俳優・二宮和也が持つ、“2つの力”。『浅田家!』中野量太監督が驚いたシーンとは?
「二宮さんは、役者に必要な2つの力を持っている」
浅田家、そして被災地の人々の姿も、二宮演じる主人公の政志を通して描かれていく。モデルとなった写真家の浅田政志に会った印象を聞くと、「とても不思議な人。パチプロとして過ごしていた時代もあるし、いい加減で人に迷惑をかけることも多々あるような方なんですが(笑)、愛嬌があって、みんななぜか彼を許してしまうし、さらに言えば彼に期待してしまう。そしてなぜか子どもが寄ってくる。不思議な魅力のある方なんですよ」と楽しそうに微笑む中野監督。
政志の中心にあるものは、「人を喜ばせることが好き」ということだと実感したそうで、「根本的にそういった人間性や想いがある人でなければ、この役を演じるのは難しいと思っていました。それを持っていたのが二宮さん。僕だけでなく、制作陣みんなのなかで、二宮さんは候補に上がっていました」と抜てきした理由を吐露。「浅田さんは決して特別な人ではなく、とてもナチュラルな方でもある。常に僕らと同じ目線でいてくれる人。二宮さんもスーパーアイドルなのに、そういう方で。現場でいばることなんて絶対にないですし、みんなと同じ目線で映画作りに参加してくれる。どこか飄々としていて、チャーミングで、浅田さんを演じるにはぴったりでした」
とりわけ二宮の“役者力”を感じたのが、政志と写真洗浄のボランティアを一緒に行う青年、小野役の菅田将暉に話しかけるシーンだという。「辛い思いをした小野くんが、写真洗浄の現場に帰って来るシーンがあるんですが、そこでの二宮さんの芝居がものすごくよかった。政志が『今日はこういうことがありました』と小野くんに報告するだけのシーンなんですが、政志は『僕たちのやっていることは間違っていないんだよ』と心の奥で伝えようとしている。芝居としては、すごく難しいと思うんです。でも政志の優しさもにじみでるような、いいシーンになりました。涙しているAPがいたくらいです」
中野監督は「二宮さんは、感度がいい」と惚れ惚れ。「俳優さんにとって必要なのは、脚本を理解して、自分がなにをしなければいけないかを察知する力。そしてそれを表現する力。二宮さんは、この2つをしっかりと持っている。なにをやらなければいけないのかを読み取って、ドンピシャの芝居をしてくれる。すごいですよ」
政志の父を平田満、母を風吹ジュン、兄を妻夫木聡が演じている。ユニークな家族写真も完全再現したが、4人の撮影スケジュールは、この家族写真を撮ることからスタートしたそう。中野監督は「これは僕の作戦だったんです」とニヤリ。
「衣装やシチュエーションも変えなければいけないし、時間もかかる。『この写真を撮り終えたころには、みんなが家族になっているはずだ』という確信がありました。撮影者は、(原案の)浅田さんご本人。『右手をもう1センチこちらに』など再現にものすごくこだわっていて(笑)。とても大変だったんですが、役者さんも皆さん、笑いながら、楽しんでやってくださった。大食いの写真なんて、かなり夜遅くに撮っていますから、皆さんヘトヘト。でもそうすることで、役者の方々も『浅田家はこういう家族なんだ』ということが、実感としてわかった。お父さんが『私の生きがいは家族です』と発言するような素敵な一家ですが、キャストさんのバランスを見ても、とてもいい“家族”が出来上がったと思っています」と胸を張った。
取材・文/成田おり枝