堤真一と石田ゆり子、初共演作『望み』で呼応し、変化した芝居「カメラにどう撮られるか、考えられない域になっていた」
「試写を観て、こんな顔していたのか…と驚いた場面がありました」(石田)
――そんなふうにお2人を悩ませた役、一登と貴代美について、演じるうえでどう考えましたか。
堤「ここまで追い詰められた時、人の身体はどういうふうになるか、紋切り型の表現にならないように気をつけました。息子のことが心配だからといって、ずっと眉間にシワを寄せていればいいわけではないと思いますし、お腹も空くだろうし、トイレにも行きたくなるだろうし、その都度、どうあることが最適か考え続けました」
石田「貴代美はじょじょに家事も着替えにも気を使わなくなっていきます。台本では着たきり雀の設定だったのですが、女はもっと強いだろうと私は思って、監督に相談しました。その結果、あるきっかけから、息子を信じて生きていこうと覚悟を決めるところで、白いシャツに着替えることになりました」
堤「つい役に没頭してしまう体験もして、試写を観た時、このシーンはいつ撮ったっけ?と思うところもあったくらいなんですよ」
石田「私も試写を観て、こんな顔していたのか…と驚いた場面がありました。一登も貴代美も追い詰められて、最後のほうはすごい表情になっていますよね」
堤「カメラにどう撮られるか、他人にどう見られるか、考えていられない域になっていましたよね。でもそういう、なにかの作用によって芝居が変化していくことがある現場のほうが俳優としてはやりがいがあります。予定どおりにいかないほうがおもしろいし、予定とずれた時になにをするかってことが醍醐味だと感じます」
――それだけ一登と貴代美は息子のことを考え続ける作品です。それぞれの考え方をどう感じましたか。
堤「僕にも子どもがいるから一登の気持ちはわかります。もし、自分の子どもが犯罪に巻き込まれ、加害者の可能性があるとしたらどうするかと考えた時、貴代美のようになにがなんでも生きていてほしいと願うよりも、一登のようにまず世間体を気にしてしまうことも無理もないと感じました。僕だったら、真っ先に息子を探しに行って、真実を知って、もし息子が加害者だったら、法で裁かれる前に僕自身で裁きたいですね」
石田「私は貴代美のとにかく生きていてほしいというシンプルな気持ちはわかります。たとえ罪を犯していても子どもなりに理由があるだろうし、そこに寄り添いたい。“母”にはそういう強さがあるような気がしました」
堤「僕は貴代美の気持ちもわかる気がします。というのは僕、最初に台本を読んだ時、規士と過去の自分を重ねてしまったんです。彼と似て、僕も部活を辞めた時、学校に行かず家にずっといるようになってしまったことがありました。そうすると世間はあらぬ噂をたてるもので、僕はなにもしていないのに不良になったみたいなことを勝手に流しはじめたんです。その時母親が『私はどう言われても息子を信じる』と言ってくれていたと人づてに知って、母親を悲しませることだけは絶対にしちゃいけないと思ったんです」
石田「そういう時、お父さんはどうされていたんですか」
堤「父は明治生まれでとても無口な人だったので何も言わなかったです。高倉健さんよりも無口な人でした」
石田「高倉健さんより無口とはかなりの無口ですね(笑)」