堤真一と石田ゆり子、初共演作『望み』で呼応し、変化した芝居「カメラにどう撮られるか、考えられない域になっていた」
「若い2人が愛せる俳優さんだったからこそ、僕もしっかりした父親になれた」(堤)
――息子役の岡田健史さん、娘役の清原果耶さんとのお芝居はいかがでしたか。
石田「撮影現場ではなごやかな家族のシーンが少なく、緊張を要する場面ばかりでしたが、岡田さんと清原さん、2人とも集中力があって頼もしかったです。清原果耶ちゃんはまだ十代なの?と驚くほどで、むしろ私がしっかりしなければと引っ張られました」
堤「ほんとに2人とも若いのにしっかりしていますよ。岡田健史くんは、役は拗ねている設定だけれど、本人は明るくて素直で、話もたくさんしました。彼がそういう感じだったから、一登が怒るシーンでも抑制できた気がします。やんちゃ過ぎる子だったら、もっと厳しい演技になっていたかもしれません(笑)。若い2人が愛せる俳優さんだったからこそ、僕も一級建築士をやっているしっかりした父親になれた気がします」
石田「お芝居は相互関係であって、相手役の芝居によって変わりますよね」
堤「映像だと『はじめまして』の日に、いきなり親子役を演じなくてはいけないことが多々あります。言葉では『おとうさん』とか『おかあさん』と呼び合うけれど、どうしても表面的になってしまう。そこで、撮影に入る前に、1回、家族で会わせてほしいとお願いして、監督も一緒に食事会をしました。結果、芝居の打ち合わせは一つもしなったけれど(笑)」
石田「打ち合わせはなくても、そういう提案をしてくださってすごくありがたかったです。たしかに家族の雰囲気を自然に醸し出すことは難しいですよね。日常生活を共に過ごすうえでそんなに仲良しこよしでもいられないでしょうし」
――現場では4人で話をしましたか。
堤「石川邸のセットに本がたくさんあって、待ち時間に料理の本などを見ながら雑談もよくしました。石川邸が広くてそこで待機できるのも良かったですよね」
石田「シリアスな話ではありますが、現場は不思議と和やかでしたよね。食べ物がいっぱいあってホッとできましたし」
堤「石田さんは、気づくとなにかつまんでいましたよね(笑)」
石田「食事シーンも多かったので、フードコーディネーターの方が常時いらしたから、待ち時間にスタッフやキャストがなにかをつまめるようになっているケータリングのコーナーに美味しそうなものがたくさん並んでいて目移りしてしまって(笑)」
堤「そういうスタッフの気遣いもありがたい現場でした」
――一つの家族の形を演じてみて、家族とはどういうものだと思いますか。
堤「例えば、家族の間である本の感想がたまたま一致しても、別の本に関しては一致しないこともあるように、基本的には家族であっても考え方は違うと思っているべきだと思っています。石田さんや岡田くんや清原さんの醸し出す雰囲気によって僕の芝居が変化していったこともそうですけれど、人の感情や考え方は一つの角度に決めらなくて、刻々と変わっていくものなのではないでしょうか」
石田「おっしゃるとおり、やっぱりお互いを尊重し合うしかないと感じます。ただ、そう思えるようになるには時間も必要かもしれません。子どもの頃、きょうだい喧嘩をして、ひとりっ子だったら良かったと思うことが誰しもあると思いますが、年を経ると本当にありがたい存在に感じるものです。家族だと厳しく当たってしまうのに、他人だと優しくなれることがありますが、家族だからと言って過度に甘えたり期待したりせず、節度を持ちたいものですね」
取材・文/木俣 冬