マーティン・スコセッシから新鋭に引き継がれた…伝説のロックバンド『ザ・バンド』の記憶

コラム

マーティン・スコセッシから新鋭に引き継がれた…伝説のロックバンド『ザ・バンド』の記憶

1960年代後半から70年代にかけて活躍した伝説のロックバンド、ザ・バンド。その中心メンバーだったロビー・ロバートソンの自伝が、『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(公開中)として映画化された。バンドの誕生から楽曲制作、メンバー間のすれ違いまでを追う本作より、ザ・バンドが歩んできた物語を、製作総指揮を務める巨匠マーティン・スコセッシとのつながりを中心に紹介したい。

左から、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソン、ロビー・ロバートソン
左から、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソン、ロビー・ロバートソン[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

ボブ・ディランと親交を深め、大勢のミュージシャンからの尊敬を集めるザ・バンド

ザ・バンドの歴史は、1959年にカナダで人気を博した米国南部出身のミュージシャン、ロニー・ホーキンスのバックバンド、ザ・ホークスが前身となってスタートする。ドラムやヴォーカルを担当したリヴォン・ヘルムが最初のメンバーとなり、その後、ロバートソンが加入。そこに、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンらが加わり、バンドの母体が完成した。

【写真を見る】親交の深いボブ・ディラン(右)とステージに立つ、ザ・バンドの中心メンバー、ロビー・ロバートソン(左)
【写真を見る】親交の深いボブ・ディラン(右)とステージに立つ、ザ・バンドの中心メンバー、ロビー・ロバートソン(左)[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

バンド結成後はボブ・ディランのバックバンドとして1965~66年にかけてツアーを回り、彼の誘いを受けて、ニューヨーク郊外のウッドストックで共同生活をしながら楽曲制作に取り組むことに。68年にバンド名を「ザ・バンド」とし、「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」でアルバムデビュー。シングルカットされた「ザ・ウェイト」は、『イージーライダー』(69)にも使用され大きな反響を呼んでいる。

カナダ人が4人というメンバー構成ながら、ブルースやカントリーといったアメリカのルーツ・ミュージックをベースに、それをロックと融合させた音楽性が特徴。メンバー全員が様々な楽器を演奏できるマルチプレイヤーであることから、いまなお多くのミュージシャンの尊敬を集めている。劇中でも、ブルース・スプリングスティーンやエリック・クラプトン、ジョージ・ハリスンらが敬愛の気持ちを語っている姿が印象的だ。

郊外で共同生活をしながら楽曲制作に取り組んだザ・バンド
郊外で共同生活をしながら楽曲制作に取り組んだザ・バンド[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

傑作「ザ・バンド」や、ウッドストック劇場での観客なしの演奏を収めた「ステージ・フライト」、「南十字星」といったアルバムを次々と発表し、兄弟のような絆で結ばれたザ・バンド。しかし、アルコールやドラッグに溺れるメンバーが現れ、親友だったロバートソンとヘルムの関係にも亀裂が生じるなど、しだいにグループ内の均衡が崩れ始める。そして、結成から16年が経った76年、彼らが初めてコンサートを開いた思い出の地、サンフランシスコのウィンターランドで「ラスト・ワルツ」と呼ばれるライブを行い、バンドは解散へと向かっていく。

ザ・ビートルズと匹敵する人気を誇ったザ・バンド
ザ・ビートルズと匹敵する人気を誇ったザ・バンド[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

伝説の解散ライブをカメラに収めたマーティン・スコセッシ

ディランやクラプトン、ヴァン・モリソンらザ・バンドと交流のあった大勢のミュージシャンがゲスト出演するなど豪華な布陣となったラスト・ワルツ。そして、このロック史に残るライブをカメラに収めることになったのが、当時、新進気鋭の監督として注目を集めていたスコセッシだ。

ザ・バンドの解散ライブ「ラスト・ワルツ」を撮影したマーティン・スコセッシ
ザ・バンドの解散ライブ「ラスト・ワルツ」を撮影したマーティン・スコセッシ[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

監督作品の音楽センスに惚れ込んだロバートソンからの依頼を受けたスコセッシは、単なる記録映像ではなく、一本の映画として撮影しようと着手する。『タクシー・ドライバー』(76)の名手マイケル・チャップマンを中心に7人の撮影監督を用意し、カメラも当時の音楽ドキュメンタリーの主流だった16mmの手持ちカメラではなく、35mmカメラを使用。さらに、『ウエストサイド物語』(61)でオスカーに輝いたボリス・レヴェンが舞台美術と照明を担当し、セットリストや楽曲の歌詞に合わせた台本も作成された。

『ラスト・ワルツ』(78)として劇場公開されたこの記録映画には、複雑な心境でライブに臨むメンバーへのインタビューも差し込まれたほか、カメラは盛り上がる観客ではなく、演奏するミュージシャンたちをほぼ全編にわたって捉えている。表情や仕草はもちろん、演奏中にギターのストラップが切れたクラプトンを見て、ロバートソンがつなぎを行う自然体な姿も収められているなど、スコセッシのカメラワークや演出によって、ライブの臨場感が伝わってくる唯一無二の作品となった。

バンドの解散後は、スコセッシ作品で映画音楽を制作するなど、多岐にわたって活躍したロバートソン
バンドの解散後は、スコセッシ作品で映画音楽を制作するなど、多岐にわたって活躍したロバートソン[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

本作でロバートソンとスコセッシは意気投合し、『レイジング・ブル』(80)や『キング・オブ・コメディ』(83)、『カジノ』(85)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)、『アイリッシュマン』(19)といったそうそうたる作品でタッグを組むことに。ロバートソンが映画音楽の世界へ進むきっかけとなり、スコセッシもまた『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』(05)や『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』(08)、『ジョージ・ハリスン リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』(11)といった音楽ドキュメンタリーを撮り続けている。

■『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』予告編

■『ラスト・ワルツ』予告編

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